今日は伊藤洋一さんの
Day by Dayの
中国、先進国への長い道からの感想です。
「中国、先進国への長い道から」は
非常にうまく中国の政治家が抱える問題について解説なさっており、
中国の政治状況などを知りたい方にはオススメです。
以下、私的感想。
まず引用から
最後のキーワードは「政治的リスク」「桎梏としての社会主義」である。政治的リスクに関しては、9月13日のレポート(http://www.ycaster.com/news/040913.pdf)でも少し触れた。「単位から個への中国社会の変質とそれが持つ政治的意味合い」といった話だったが、今回は今でも中国の政策当局者、エコノミストの頭の中にある一つの桎梏について書こう。それは、「13億人という人口の重み」であり、一つの政策が膨大な人口に及ぼすインパクト、それに統治の正統性とマンデートの問題である。
ここがやはり目についた。中国が抱える政治的リスクの多きさを痛感させられた。
13億という国民。どこの国でもその国民全てを満足させることはできない。
日本なら失業率が5%程度でも、政府に不満を述べる人間は500万がいいところだ。
だが、中国は桁が違う。失業率が5%になっただけで
6000万人以上の政府に不満を述べる人間が生まれることになる。
もし、失業率25%なんてヨタ話が本当なら、中国には3億人を超える
政府に不満をもつ人間がいることになる。アメリカの全人口を越える
人間が政府に不満をもっているということを意味するのだ。
対して、政府はひとつしかない。いかに、中国政府が抱えるリスクは
とんでもなく大きい。
一方で、中国政府には統治の正当性がない。
日本やアメリカのように選挙によって選ばれたという
担保がない。だから、不満が爆発した場合、政府は自らの正当性を
維持できない。
だから何かが必要になる。
今までは、侵略者日本から中国を救ったという事が担保になっていた。
毛沢東、周恩来、讃・燭泙任蓮」
彼らは民衆にとっての英雄だった。
その事が彼らの支えであり、彼らの政治基盤だった。
だが、もうその正当性は使えない。
現在、その世代の人たちは政治の場から退いているからだ。
だから、今の戦後生まれの中国政治家達にとっては
何らかの統治の正当性を保つための方法が必要で
それが江沢民が進めた愛国教育だったんだろう。
そういう背景を知ると、中国政府の政策は納得できる進路である。
対外経済貿易大学金融学院の何自云副教授の言葉、
「中国政府はいやいや一歩一歩下がっている。重要なことは政府の下がるペースが速まっていることだ」
というのも納得がいく。中国政府は、正当性を失いつつあるのだから当然だ。
対日戦争の英雄として、支配を正当化できた時代は、毛沢東の死とともに
少しずつ終り始めていたのだろう。
もう、民衆から支持を取り付ける事ができなくなってきている中国政府。
そして、力が急速に失われ、コントロールする力すら失ない始めている。
彼らにとっては、13億の国民を食わせていく事こそが史上命題なのだという。
それも当然だと思う。政府一つに対して人が多すぎるのだ。
たった一ポイント失業率が上がっただけで不満をもつ人間が
1000万人増える国。一人の指導者が抱えるには多すぎる数だ。
今、中国は日本に二つの点で依存していると思った。
一つはいうまでもなく経済。
成長を続ける経済において、対外投資がなくば、13億の国民を養いきれない。
石油にしろ、食料にしろ輸入国なのが現状だ。
この状態で国際社会と対立すれば、13億の国民を食わせることなど到底できなくなる。
そうなれば、どうなるか?早晩、中国政府は瓦解してしまう。
政府が瓦解すれば、10〜20年は立ち直れない。
そうすれば世界経済にも悪影響がでる。だから世界各国ともに
それだけはさけねばならない。
もう一つ、中国が日本に依存しているのは政治。
中国政府は、反日闘争にうちかった共産党が政権を握ってできたものだ。
だから、反日戦争に勝利したということが彼らにとっての
正当性の担保なのだ。それを失えば、政権自体がたちいかなくなる。
だから、日本に対しては、下手にはでれない。
経済的には日本が絶対に必要なのだが、
外交で高圧的にしか出れない。そういう事が日本社会と対立し
対中投資を鈍らせる可能性があるのはわかりきってはいるが、
そうせざるを得ない。それが、中国政府にとっての生命線なのだ。
中国政府の正当性は、共産党を率いて日本を中国から
守った毛沢東の正義に依存している。だから、その部分だけは
死守せねばならない。
靖国参拝にしろ、歴史教科書問題にしろ、
この二つは、中国政府の正当性の根幹に関わっている。
これを失えば、中国共産党政権は支持基盤を失うも
同然なのだろう。
中国政府は政治的には日本と対立しなければならないが
経済的には日本に依存せざるをえないという
なんともアレな状況に陥っている。
そんな事を考えると、あまり中国政府の対応が
高圧的には思えなくなってきた。
あれは懇願に近い。
頼むから頭を下げてくれ。じゃないと中国政府は
中国民衆の支持をとりつけれないんだ。
小泉のように、「一応」、国民によって選挙で選ばれた
政府じゃないんだ。うちらには日中戦争で日本を追い出したという
点にしか正当性がなく、その免罪符ですら、力を失い始めている。
革命が起こって、政府が転覆したら日本も困るだろ?
って感じの。高圧的には出ているが
そうせざるを得ないのだろう。だって、そうしなきゃ
中国人納得しないし。ただ高圧的にでればでるほど
日本社会から反発をくらい、それは投資を鈍らせる可能性がある。
投資が鈍れば、ますます、13億の国民を食わせるのが難しくなる。
そうなると、政府に対する批判が高まる。
もうどうしようもない負の連鎖がそこにあるように見える。
ただ、まあ、中国政府が抱えている問題は大きいけれど
体制崩壊にはいかないだろうとは思う。
そんなの世界が許さん。日本にしろ、アメリカにしろ
今、中国政府が変わるような事態になっては困るのだ。
この点は伊藤洋一さんにすごく同意。
結局、仲良くやるしかないんである。政治的にも経済的にも。