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2005年11月14日

日本の潜在成長率

日本の「潜在力」と構造改革

本日は馬車馬さんのエントリに尻馬乗り。


潜在成長率については、数字の特定が難しいという点があって
どうも、数字自体の信頼性が低いようだけれど。


ちょっと気になった部分を引用させて頂く。

しかし、この生産性、というのは厄介な概念で、労働者の熟練度、科学技術の進歩、労働者のモラル(やる気)、そういった曖昧な要素が全てこの生産性に反映されている(そのため、特に全要素生産性(Total Factor Productivity: TFP)と呼ばれる)。つまり、なんで生産性が低下したのかが良く分からない。「最近の若いもんにはこらえ性がない」から、というオヤジ丸出しな解釈も不可能ではないが、流石に説得力がないだろう。



この中で、どうしても目がいってしまうのが
熟練度や科学技術の進歩、労働者のモラル(やる気)と
いった部分だ。

簡単にこれらの生産性に反映される指標を分解すると

○労働者の熟練  
主に、労働者の経験の度合い、年数など

○科学技術の進歩
イノベーション関連。

○労働者のモラル
金銭的インセンティブと文化的インセンティブ


といった形に分解できると思う。

馬車馬さんの所の数字を見る限り、
日本の「生産性の増加による部分」が
1980年以降、ガクッと落ちた。

数字にして2.3%落ちたのだが、
実は、1980〜1990年代というのは
日本の科学技術において、「破壊的イノベーション」が
ほとんど起こらなかった時代でもある。

科学技術の進歩に、僕は特に目がいく。
日本は、暫時的に進歩してきた。

科学技術に関しては、その分類上、
クリステンセン風定義に従って
「持続型イノベーション」と
「破壊的イノベーション」に分類できるが
この二つが、経済にもたらす影響度は
「破壊的イノベーション」が「持続的イノベーション」
の10倍ともいわれるほどに影響が大きい。

日本の代表的破壊的イノベータ−である
ソニーは、1981年以降、一度も破壊的イノベーションを
起こさなかった。というより、起こせなかった。

シスコは、社訓として
「企業内からイノベーションは出てこない」
を掲げているが、過去の例を見る限りや
クリステンセン教授の研究、その他のイノベーション関連
研究を読んでも、やはり、大企業が破壊的イノベーションを
起こすのは、ほとんど無理という現実がある。

アメリカにおいては、常に破壊的イノベータ−が
どの時点においても絶え間なく、勃興しているが
これは、VCやプレイベート・エクイティ会社といった
ベンチャーを産む土台があるからと解釈もできる。

VCやプライベート・エクイティ会社は、
過去、殆どの時期において、市場平均を上回る実績を
残しているが、これは、市場が注目していない企業を
発掘し、それを支援することで、破壊的イノベータ−を
育て、急成長する企業への投資によって、
市場を上回ってきたからである。

基本的に、市場のスピードと規模は大企業のそれを
上回る。故に、大企業に投資する会社は
市場平均を下回るリターンしか上げられない。

市場平均を上回るリターンを稼げる唯一の方法は
バフェットのいうように、市場が注目していない
企業への投資のみであり、また、市場が注目しておらず
また成長要素のあるベンチャーへの投資を主体に
行うVCやプライベート・エクイティ会社が
市場平均を常に上回るリターンを上げてきたのも
当然とも思う。

創造し、破壊(売却)するという二つの要素を
バランスよく行ってきたVCや
プライベートエクイティ会社は
新しい時代の企業の先駆けともいえる。

そして古い時代のやり方では常にマーケットが勝つのだ。
こういった、成長を終えた大企業に投資する場合は。

クリステンセン以後の人達は
口をそろえて、日本の成長率の鈍化、経済の低下は

「大企業を無理やり生き延びさせて、
下から来る破壊的イノベータ−を作り出す風土がないからだ」

という事を述べているが、
実際に、これには一理あると感じている。

市場が、健全な状態で維持され、
競争が公平に行われている限りは、
常に


「市場は、成長の終った企業を退出させ、
成長できる新規企業を参入させる」

といった形を追求する。
これは、二極化を勧めるが、それと同時に
常に市場を成長させる。

日本においては、この仕組みがダイナミックに働くことなく
大企業の保守といった形で動きつづけた部分が多い。

市場原理が不適当な形で働いていたと
いえる。

構造改革とは、市場原理によって
成長する余地のない企業を退出させ
成長する企業を参入させる目的が一つには
あったので、そこは僕は、指示している。


それと、最後に

日本はこの不景気の中でさえGDPの3.1%を研究開発投資につぎ込むストイックな国なのであって(アメリカで2.8%、EUでは1.9%)、そうそう簡単に生産性が低下する理由が無いのだ。


この部分を引用させていただくが、
これには、ちょっと異議がある。

マッキンゼ−企業業績データベースによれば
R&Dの経費と株主が受け取る総利益の間には
強い相関性はない。


もちろん、結果は、業界によって異なる。

例えば、製薬業界では、R&Dと株主が受け取る利益の間には
強い相関性がある。

それよりは若干、相関性が低いが
パルプや製紙産業、日用品や特殊科学製品産業、
航空宇宙産業、防衛産業、石油精製産業などは
それなりに相関性がある。

石鹸、洗剤、医療、手術用機器、情報通信などでは、
R&Dと株主と総利益の間に明確な相関関係は
見当たらない。

コンピューターハードウェア、ソフトウェア、
そして半導体の分野では
例の相関関係は、なんと負の関係をもっている。


実は、研究開発の数字は、市場全体では
それが企業、株主利益と相関性をもっていないので
それをもって、日本の潜在成長率が
過小評価されていると言うのは、どうかと思う。

残念だが、研究開発をかけたからといって
企業が成長することはない。

もし、研究開発と企業業績に高い相関性があるなら
常に大企業は成長しているはずだ。


無論、業種によっては、研究開発は
業績のアップ、企業の成長に貢献するが
製品のコモディティ化や競争の激しい業種においては
多大な研究開発は、逆の結果を生むことも多い。

結論からいうと、
技術開発と資金は、必ずしも相関性を持たない。

破壊的なイノベーションが大企業で生まれず、
大抵は周辺部の企業から生まれることを
考慮にいれれば、周辺部企業や、ベンチャーといった
企業家精神の低さ、それに対する投資意識の低さが
日本の潜在成長率の低さに結びついていると
考えたほうが無難ではないかと思う。


残念だが、成長の終った企業はさっさと市場から退出願ったほうがいい。
潜在成長率を上げる事が、今の日本において
いい事なのか悪い事なのかは、マクロ経済について
よくわからない僕にとっては、判断できないが
もし、潜在成長率を上げたいのであれば、
研究開発もいいが、それ以上に民間のVCや
プライベートエクイティ会社のように
企業家を育成する風土が大事なのではないかと思う。

成長する会社を育めない場所では、
成長率には常に限界があるのだ。



*ちょっと関係があるので追記

GEやIBMなどは、大企業であったが、
斜陽の時期を乗り切って成長した実績がある。

これらの会社に共通するのは
それまでの事業で不採算になり、成長が見込めなくなった
事業を撤退しつつ、新たな成長部門へと会社全体を
移行させていった事にある。

特にGEを当時、再建したウェルチは
いわば、「ギャンブラー」だった。

「矛盾を恐れるな」「変化は常にある」
「常に攻撃せよ、必要な時だけ守れ」

といった形で、買収を積極的に行い
成長部門への徹底的な投資を行った。

ウェルチは、買収に関しては
「30%前後は失敗するだろう」と
当時において述べており、
つまりだが、GEを成長する事業への投資会社へと
変貌させたと言ってもいい。

IBMのガースナ−は、勝負する事業のレイヤーを変えることに
よって、IBMを再生させたが、それにいたる道のりは
険しく、また、かなりのリスクをとっている。

彼らに共通するのは

「リスクを取らない事は、会社を破滅させる唯一の確実な方法だ」

という認識であり、リスクテイクをしないそれまでの
大企業的社風の改革に成功した事が大きい。




posted by pal at 17:50 | Comment(2) | TrackBack(1) | コラム このエントリーを含むはてなブックマーク | 編集
この記事へのコメント
TBありがとうございます。リプライが遅れてごめんなさい。

イノベーションの問題をダイレクトに考えるというのは大変重要な視点だと思います。

イノベーションの効率というのは(私の知る限り)経済学では不得意な領域だと思います。少なくとも、教科書に載るほどの成果は無いようですね。今回の対iPodの敗北を見ても、ソニーは大きくなりすぎたなぁと思います。一分野のイノベーションが企業の別の部門の不利益になるようになってしまうと、もうしんどいのでしょうね。

それから、R&D投資と生産性ですが、これについては明確な関係があることが多くの論文で実証されています(もう随分前に勉強したので、細かいところは忘れてしまいましたが・・・)。ただし、これはマクロなレベルの話で、個別の企業のR&Dとそれによる生産性の向上は確率的に独立である可能性はあると思います。要は、平均値としてのR&D投資と平均値としての利益に相関があれば良い訳です。このふたつの相反する事象は特に矛盾しません。

技術開発他に積極的な企業の育成が重要だという点には全く同感です。PEなどがどの程度有効なのかは良く分からないのですが、とりあえず期待ですね。最終的なスポンサーである預金者がリスク回避的なのがつらいところではありますが。
Posted by 馬車馬 at 2005年11月23日 06:36
>>馬車馬さん
コメントありがとうございます。
いつも、ブログのほうを拝見させて頂いております。

>それから、R&D投資と生産性ですが、
>これについては明確な関係があることが
>多くの論文で実証されています

なるほど、そうなんですね。
経済に詳しくない奴が偉そうな事いって
申し訳ありません。

もっと勉強して出直してきます。
Posted by pal@管理人 at 2005年11月23日 07:41
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