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2005年08月04日

アメリカンヒーローにみる物語の本質

このエントリは、
カトラーさんのこのエントリ↓

見えない敵への恐怖とアメリカンヒーローの変質

を読んで、触発されて書いた記事ですので、
カトラーさんの記事を読んでから、お読みいただけると助かります。

ヒーローというのは、色々なものがあります。
ですが、基本的なセグメント化は可能で、
ヒーローというのは、簡単にいくつかに定義可能です。

1、神話的ヒーロー

これは、神話の物語を思い浮かべていただけると
助かります。

つまり、神様が主人公であって、主人公には神として
超自然的な力が備わっています。
神話の時代をモチーフにした場合は、これが基本なのですが
現在、神を主人公にした物語は、
まず、ありえません。理由は後で述べます。

2、アキレス型ヒーロー

これは、アキレスや、ヘラクレス、オイディディウス、
日本なら大和武、中国ならば孫悟空から封神演技の仙人達
などのヒーローです。Xメンや、アメリカンヒーローコミックの
主人公も例外なくこれです。

つまり、ちょっと神より格が下がりますが
主人公が、内部に超自然的な力を宿してはいるが
(例、怪力、超能力、神の血、半不死などなど)
限界のあるタイプである場合です。

要するに、神々と違って、彼らは「死に」ます。
ここが大きな違いです。超自然的な力をもってはいますが
限界が設定されるんです。そして、その限界ゆえに、彼らの
多くは、殺されたりしますね。


3、ロマンス型ヒーロー
これは、主人公が、神々でもなく、超自然的な力も
持っていないヒーロー達です。

多くは、現代、現実の世界にいる人間と変わらない人達ですが、
力、勇気、知性、地位であったりは、普通の人間よりも
高く設定されます。その力ゆえ、ヒーローになるわけです。
ですが、超自然的な力はもっていないので
そこにあるものが生まれます。これは後で述べます。

ロマンス文学の中核を担う人達で
いかにも現代的な主人公達です。

4、アイロニー型ヒーロー

はい、これは、特にここ100年の間に確立された
主人公で、何ひとつ、際立ったものを持っていない
人物です。

そんなんでヒーローになれるわけないだろ、と
思われると思いますが、
ま、確かに、彼らはヒーローというよりは
道化ですね。読者を笑わせたり、世の中の矛盾を
指摘するための生贄的な側面をもちます。

だから、アイロニー的な物語で、好まれ、
そこにしばしば登場します。



さて、本題に入りますが、
物語は、極めて単純にひとつのものを必要とします。

それは「困難」です。
これは、物語を形作るために絶対に必要なスパイスの一つで
これなくして物語は成立しないといっても
いいくらいです。

主人公が神々の物語が、現在、あまり存在しないのは
このためです。主人公が強すぎるので
「困難」な状況を作り出せないんです。

少年誌で「強さのインフレ」がおこるのを
嫌がるのは、このためなんですよ。

物語には「困難」がないと始まらないのに、
いきなり無敵の主人公が存在して、
何もかも、片っ端からパンチ一発で
解決の世界では、そんなものありえなく
なりますから。だから、成長ものの物語ってのは
ある一定のところまで主人公が強くなってしまうと
(ここでの一定とは、物語の中の世界において
主人公より強い相手がほんの数人しかいない状態)
もう、ほとんど面白くもなんともなくなるんです。
こればっかしは、どんなにうまいストーリーテラーで
あっても、どうしようもなくなります。

ですんで
神々を主人公とする場合は、それ以上の力を
もった敵役、あるいは、神々ですら克服不可能な
窮地を描く必要がでるわけですが、
そんなものは、そうパターンがありませんからね。

ですので、必然的に、現代文学で
物語の主人公となれるのは
2、3,4型の主人公となるわけです。
神々タイプの物語は、「困難」な状況を
作り出しにくくなったので、あまり書かれなくなりました。

さて、2、3,4はそれぞれ、限界をもつ主人公です。
限界があるので、しばしば困難な状況に直面するわけですが、
その場合において
作家の困難な状況の作りやすさは
2<3<4となります。

当たり前ですけどね、2は超自然的な力をもっているので
ちょっとやそっとでは、びくともしません。
ですから、相応に強い敵、あるいは絶望的な状況を
考え出す必要があります。

3と4はただの人間なので、
頭に銃を突きつけてやれば、ピンチに見せれますが
セガール映画とかだと、セガールが強すぎて
逆に敵がピンチに見えちゃうようになります。
つまり、3は、主人公はただの人間にも関わらず
「強すぎる」という設定なので
4よりも「困難」さを作り出すのが難しいわけです。


さてここで、物語ってのは、困難な状況に主人公が
追い込まれたら、そこから脱出することが前提です。
そうしないと、物語が終っちゃいますから。

この脱出の時において、活躍するのが
主人公の超自然的な力であったり、機転、才気、
あるいは仲間の助け、外部的な助け、幸運になるので
困難な状況から脱出させやすいのは

2>3>4

の順になるわけですね。

まぁ、見事に反対になるわけです。
このあたりに物語のジレンマがあるわけです。

「主人公を強くすればするほど
より困難な状況に直面させないと物語が
成り立たないが、強さには殆ど上限がないのに
困難さには限界があって
死以上の苦難をつくりだすことができない」

ッて奴です。

で、ここからが、アメリカンヒーローと「困難」の問題になるわけですが、
アメリカンヒーローってのは、正義の代行者です。
彼らは、強大な悪という困難に立ち向かい、そして
勝利をおさめるのが物語として定式化されたわけなんですが。

ですが、アメリカ事態が正義の国じゃないってことが
もう、アメリカ一般市民ですら知っているわけですよ。

古くは、

ウンデット・ニーの虐殺

から始まって、ソンミ村の虐殺、広島、長崎への原爆投下、イラク戦争での捕虜虐待、
イラクの一般市民の殺戮などなど。

よーするにですな、昨今ってのは
物理的な力をもった強大な「悪の化身」
(インディアン、べトコン、日本兵、テロリスト)
を倒す正義のアメリカンヒーローって構図が
使いにくくなってきてるんです。

簡単な二項対立を作って物語をつくらないと
読者が物語を理解できなくなるので、
悪役が絶対に必要なわけですが
インディアンにしろ、ベトコンにしろ、日本兵にしろ
テロリストにしろ、敵役にするにしては、境遇が可哀相すぎるんです。
だって、元は普通の人達なわけですから。

こんな人たちに悪のレッテルを貼るのは
とても難しい。それに、作家の側も
そんなレッテル貼りに加担するのが嫌になってきている。

そんなわけで、ですね、昨今は、
物理的な困難さ、つまり「苦難」というもので
主人公を苦しめるのでなく、
精神的な困難さ、つまり「苦悩」を中心世界に据えた
物語ってのが、大量生産される時代を迎えているわけです。

要するに、ですね、
主人公を苦しめる方法が、「苦悩」のほうが
手を汚さずに済む時代なんですな。

アメコミに旋風を巻き起こしたスポーンや
最近、映画化されたスパイダーマン2なんかが
いい例なんですけど、あれ、物凄く
アメコミ的な「苦難」の物語でありながら
同時に「苦悩」に非常に重きをおいてますよね。

ミスターインクレディブルもそう。
あれも悪役は存在してますが、
悪役というにはスケールが小さい。

インクレディブルの物語は、どちらかというと
苦悩の部分がかなり大きい。

こういう部分に、二項対立的な
善と悪の対比で物語が作れた時代が
終りつつあるのを感じるんですよね。

物理的に強大な力をもった悪役で主人公を
苦しめるのが、時代の流れ的に難しくなってきたので
精神的に困難な状況を作り出して
それで主人公を苦しめるという手法が
シェイクスピア劇やら純文学の世界だけでなく
正義と力の象徴であるアメリカンヒーローの分野にまで
進出してきた、と。

時代が随分変わったナァと感じる次第です。

それと、この「苦難」と「苦悩」にも
種類があって、2種類に分類可能なんですが、
これについては、また別のエントリで扱いたいと思います。


posted by pal at 00:14 | Comment(0) | TrackBack(2) | コラム このエントリーを含むはてなブックマーク | 編集
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