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2007年04月25日

労務政策の歴史と今後の見通しの話

仙石浩明CTO の日記: 技術者の成長に役立つ会社とは?(1)


ちと、本日は、こちらの話題に尻馬。


上記のエントリは、現状、就職活動中の学生さん達、特に技術者志望の学生さん達の傾向とかの話でもあるわけなんだけど、ちょっと気になったことがあるんで、尻馬。


Life is beautiful: 知的労働者には「組織を移る力」がある


こちらの中嶋さんのエントリを読んでもらうのが一番かもしれないけれど、僕は、いい機会なので、20世紀における日米の労働史というのを簡単に今日は紹介しておこうと思うわけです。


就職活動をする人達には、それなりに有効な知識だと思うます。で、なんだけど、アメリカの簡単な労働の歴史について、まず述べてしまおうと思います。ちと長いんですが、どうしても述べておかないと上手くつなげれないんで。


■駆り立てシステムの時代


で、なんですが、労務管理というのが重要になったのは、アメリカでは19世紀後半あたりからでしょう。産業革命が起こり、工場が立ち並ぶようになった時期です。そして、この時期から、賃労働者が大量に発生します。さらに、熟練労働者だけでなく半熟練労働者・未熟連労働者による労働でも高い生産性が可能になる大量生産システムが形作られていきます。最終的に、それはそれ以前の経済では存在しなかった大企業を生み出すことになるわけです。


そういった背景の中、大体1920年代前あたりまで、主流であったと思われる労務政策が、「駆り立てシステム」と言われる労務管理システムです。


このシステムは、簡単に言えば「圧力によって労働者を労働させるシステム」です。イメージとしては、絶望工場の奴ですね。傲慢で高圧的な工場長がいて、その下で低賃金・長時間労働で従業員は働かされるという感じです。


福利厚生なぞ勿論なく、従業員は使い捨てされ、抵抗した人間は容赦なく解雇という奴です。特に未熟練・半熟練のブルーカラー労働者は、こういう立場に置かれていました。


ただ、1900年代あたりから状況が変わってきます。いうまでもなく、この時期は、アメリカ型大量生産方式が開発された時期でもあります。



1907年、フォード社は、フォードT型を完成させるわけですが、その後、技術革新と生産方式の洗練を経て、それは「フォーディズム」とも呼ばれる大量生産方式となって結実したのでした。これが1909年あたりの話になります。


■フォード型生産方式の完成と問題点



今では、フォーディズムは、その問題点の多さから批判されることも多いですが、当時としては画期的なシステムでした。


まず、有名な移動組み立て法になりますが、これが画期的だったのは、作業が単純化されたことです。つまり、熟練労働者でなく、半熟練労働者や未熟練労働者であっても、労働力として雇用が可能になったわけです。


作業が単純化され、そしてベルトコンベヤーによって部品を流し作業するこの方式の中では、ほとんど訓練すら必要としない作業が8割程度を占めていたようです。


さらに、この方式の中では、生産性の大幅な上昇が望めました。有名な話ですが、1909年に量産が始まったT型フォードは、フォード生産方式の下で発展を遂げ、10年後の1920年には、年間100万台の生産すら可能にしたのでした。


このようにフォード生産方式は、


1、流れ作業による生産性の爆発的な増加
2、熟練労働を必要としない作業の単純化

をもたらしたのでした。結果としてフォードが企業として得たのは、超がつくほどの低コストでの車生産と、後には年間100万台を生産可能になるほどの生産能力です。


こうして完成したフォード生産方式による大量生産は、後のアメリカの広大な国土の発展を助けたとも言われます。


とはいえ、偉大な発明であったのですが、フォーディズムには、問題点がありました。それは、組み立てラインにおいて、作業が単純化され、作業スピードのアップが求められた為、


「延々続く単純労働には労働者は耐え切れない」
「労働が休み無しで延々と続くため体が持たない」

という事が問題とされたんです。


大量生産の利点は商品ひとつあたりの生産にかかるコストを下げる事なのです。その為には、大規模投資による製造ラインの設計、そしてフル操業が必要とされます。


何故なら、大規模投資は、固定費を大量に発生させます。ですので、低コストで製品を作るには、沢山の製品を作ることで、製品一つあたりにかかる固定費をさげることが重要だからです。


もし、フル操業できない場合には、商品一つにかかるコストに固定費が跳ね返ってきます。そのため、大量生産の効果には、常に一定の規模で工場が稼動していることが重要になります。


そのため、フォードの工場では、流れ方式による単純労働をより早く、正確にすること、できるだけ休みなしに生産しつづけることが重要になったんです。


ですが、こういった事が労働者側に、上記のような問題を引き起こし、数字的には、離職率が高まり、労働組合の組織率が高くなりました。それから、ストの発生です。



そのための施策として、フォードが行なったのが、有名な日給5ドルと一日8時間労働(週48時間)ですね。ワンマン経営者のフォードらしく、最たる数値的裏付け無しで決めたらしいのですが。


ただ、これは、誰にでも賃金5ドル払うってわけではなく、本来の賃金+利益分配部分などからなっていました。


とにかくも、こうした施策によって、フォードでは、離職率の低下や労働移動の問題、ストの問題などに対処することに成功したわけです。


こういった施策は、今の企業経営にも生かされています。労働時間の短縮や、利益の分配などは、労働者側と経営側との間での深刻な対立を回避するために生み出された手段なんです。


さて、こうして、労働者側と経営側の対立が深まるにつれて、色々な施策が試されたわけですが、その中で、最も有名なのが、ウェルフェア・キャピタリズムになります。



■ウェルフェアキャピタリズムの時代





フォードが台頭し、そしてアメリカ型の大量生産方式が広まり、大量消費社会が到来し、「黄金の20年代」と呼ばれたのが1920年代のアメリカでした。

この時期、特徴的な労務政策の一つが台頭しました。それがウェルフェア・キャピタリズムです。


これは、1920年代のアメリカの絶好調ぶりと、1920年代初期における労働運動の高まりからでしょう。1919年には、アメリカで大規模ストライキが頻発するようになっていました。


1920年代初期における労働運動の高まりは、ソビエト連邦の成立の影響と、先にあげたような、大量生産システムへの不満によるものでしょう。


資本家側は、こうした運動の高まりに対して、様々なアクションを起こしました。代表的なのは、伝統的な「圧力による解決」です。


ですが、パワーによる労働運動の弾圧は、ストは静めることはできたものの、労働者の不満を消すことはできません。そして不満をもった労働者は、生産性が低くなる上に、いつ又、反乱をおこすかわかったものではありません。


そうした労務政策とは違い、「洗練された」形で、労働者を統治することを目指したのが、ウェルフェアキャピタリズムです。


内容的には、圧力によって労働者を働かせる駆り立て方式に変わり、合意によって労働者に働いてもらう労務政策が代表的でしょう。


一般に、ウェルフェア・キャピタリズムとは、企業がその従業員を企業内「市民」と認めるとともに、その生活基盤の安定に責任をもつという理念に基づいた労務政策である。

「現代アメリカ企業経営史」 第九章より



このウェルフェア・キャピタリズムに関しては、非常に日本企業の労務政策と似た点をもっているのが特徴です。


つまり、

・労使のコミュニケーションの場としての従業員代表制
・従業員への長期雇用の保証
・福利厚生制度の充実
・内部昇進制度
・会社への忠誠を求め、社員と企業の一体感を目指す労務政策


などなどです。労働運動の高まりやストライキの多発といった問題に対して、幾つかの企業は、こういった労務政策を掲げるようになります。フォードのものも当時としては優れてはいましたが、それをさらに進んだ形で取り入れた企業として、デュポン、IBM、コダックなどが上げられます。



日本企業でも、優れた企業などでは、こうした特性を残している企業がいくつかあり、それが模範とされているケースもあります。


特に一昔前では労使間のコミュニケーションが奨励されていたりすることはありますし、正社員は長期雇用が保証されていました。福利厚生も充実していました。


基本的にですが、福利厚生の充実というのは、こういった時代の経験から創られたものでもあります。つまりですけど、「企業がその従業員を企業内「市民」と認めるとともに、その生活基盤の安定に責任をもつ」という理念が具現化したものなんです。国家が国民の最低生活水準などに、ある程度の責任をもつのと同様に、企業も従業員の生活の基盤に責任をもつことが求められたわけです。



さらに、ウェルフェアキャピタリズム的な労務政策を掲げた企業は、基本的に企業では内部昇進者が、やがては社長や幹部になるのが普通でした。大企業では社員教育に関して、内部で行なうケースが多く、内部労働市場を構築していたということがいえます。



こうしたウェルフェアキャピタリズムの流れは、1920年代、アメリカ企業に広まったのですが、1929年の大恐慌がそれをズタズタにしました。


大恐慌のせいで、アメリカの多くの企業はレイオフをせざるを得なくなったせいです。ウェルフェアキャピタリズムは、「従業員の長期雇用を保証する」事が重要な労務政策上の柱だったので、これが崩壊したことは、システム自体の存続を危うくしてしまったわけです。


その上、レイオフの高まりを受けて、労働運動が再び活発化し、1937年、ワグナー法が制定されるに至って、かなりの部分の企業では、ウェルフェアキャピタリズムが崩壊しました。




さて、なんですが、ココまで、アメリカ企業におけるウェルフェアキャピタリズムの歴史を紹介したのは、日本企業における労使関係の話をするための前ふりでもあります。


ちと、前ふり長すぎましたが、日本において、バブル前まで主流であった労使関係は、

「終身雇用」、「年功賃金」、「企業内組合」

に集約されます。


これらは、非常に強く、先にあげたウェルフェアキャピタリズムの要素を反映しており、一番重要なのは、ウェルフェアキャピタリズムを奉じた多くのアメリカ企業と同じように、


「従業員の企業への帰属意識を強めることを目的としたシステム」


であると言えます。


1980年あたりの日本企業の経営者が「企業は永遠の存在であり〜云々」と発言しているのを、どこかで読んだのですが、こういった発言の背景はこれです。


つまりなんですけど、バブル崩壊以前の日本企業の労使関係は、以下のようなトレードオフが労使関係で交わされていたんです。


つまり、

経営サイド
労働者に対しては、福利厚生と終身雇用を保証し、生活の基盤を企業が守る。
↓↑
労働サイド
強力な組合活動はしない(アメリカのような強力な産業別組合を結成しない)
福利厚生や終身雇用、年功賃金と引き換えに時間外労働をいとわずに働く。


という関係です。要は、企業は、福利厚生と終身雇用と引き換えに、労働サイドからの弱い組合活動と強力な忠誠心を得ていたわけですね。


ですが、こういったシステムは、問題があります。


まず、最初に、年功賃金なんですが、これは、本来、仕事の内容や成果が軽視されます。あたりまえですが、年齢重ねれば勝手に昇進しちゃうわけですからね。ヤバイ社員でも時間がたてば、上にいってしまう危険性がある。

そういった構造では、有能な人が腐ります。だって努力しても、年齢を重ねない限りは上にいけないんですから、どうしたってスキルを磨こうとはしなくなりますから。


ただ、高度経済成長期には、これでも上手く回りました。高度経済成長の並にのって、売上や利益が伸びたんで、基本的に労働者の賃金は伸びたんです。


極端な話、こういう風に業績が伸びている時期というのは、年功序列システムでも問題がさほど出ないんですね。賃金は上がりつづけているなら、有能な人でも、そう不満は言わないもんです。


ただ、バブル後、問題がでたんです。要するに、企業業績の長期の低迷によって、年功序列システムが上手く回らなくなったきたんですね。


成果主義は弱肉強食で過当競争という問題もありますが、年功主義は、成果や内容が軽視され、企業の収益に悪影響を及ぼしかねません。特に不況期では、収益力を高めないといけないわけですから。


そういうわけで、バブル後、年功序列システムは、徐々に崩壊していきました。企業内では、有能な人間とそうでない人間のふるいわけ、つまりは成果主義が導入されるようになっていったわけです。要は、企業内でのできない人から出来る人への所得移転、あるいは非正規から正規への所得移転だという批判というか指摘もあるんですけども。(事実、そういう部分もあります)




で、もう一つの変化に、終身雇用制の崩壊があります。もっとも、終身雇用制というのは、実態としては長期雇用です。もともと、流通や中小など労働力の流動性の場所では、日本でも雇用にそれなりの流動性がありました。終身雇用のようなシステムが強かったのは特に製造業の大手で、ですね。


終身雇用のメリットは、熟練労働者と技術の離散を防げることと、雇用を保証するかわりに賃金の減少などを受け入れてもらうという比較的柔軟性の高い賃金システム、強力な労働組合運動の阻止などです。これとのトレードオフで、日本では経営者サイドは安い給与(英米などと比較して)による労使関係の一体化を受け入れました。


このシステムは、先にも述べた通り、「労使の一体感」が重要になります。企業は、永遠であり、労働者は企業の中の市民であり、市民を企業は失業から守るかわりに、労働者からの高い忠誠心を得る、というのが、一つの、このシステムの特徴です。


このあたりは、ウェルフェアキャピタリズムのような「洗練された労使関係」と同じなんですが、ウェルフェアキャピタリズムを奉じた企業の多くが大恐慌で、その政策を切り替えざるを得なかったように、日本でもバブル後、このシステムを切り替えざるを得なくなりました。


このシステムは、結局なんですけども「企業が永遠であり、労働者を失業から守る」という事を労働者サイドが、信じている限りは存続可能なんです。


企業が失業から労働者を守る絶対の見返りと引き換えに、労働者は時間外労働や糞仕事をもいとわず働くわけです。


そうしていれば、年功賃金で勝手に賃金はあがっていくわけですし、失業からも身を守れるわけですから。


ところが、バブルのせいで、賃金の上昇が止まり、失業から企業は労働者を守ってくれないというマインドが、今の若い世代の間に広まってしまったんですね。ぶっちゃければ、企業は、使い潰すだけ人を使い潰して、やばくなったら首を切る・・と。バブル後の惨状を見た人達は、嫌というほど、それを思い知らされたわけです。



こういう形で、将来の生活設計を労働者が織り込んだ場合には、いくつかの方向性が考えられるんですが、仙石さんの記事を読む限り、今の就職世代の望みは以下のようなものだと思われます。


極論してしまえば、「長期雇用の保証」か、「将来の就業能力の保証」ですな。


前者の場合は、「安定している会社」「福利厚生が充実している会社」などになります。つまり、今後も長期雇用を保証してくれそうな会社です。なんだかんだで、長期雇用を望む労働者は、未だに非常に多いという事なんでしょう。



で、後者の場合は、「技術を教えてくれる会社」になります。これは、バブル後の日本経済の荒廃や、大企業における給与カットや解雇、そして企業寿命の減退を見た結果として、企業に対して、長期逗留の期待をかけていない人々が指向する方向だと思われます。


つまりなんですけど、企業に求めるのは、将来、必ずすることになるであろう転職の際に有利になるような能力の獲得になります。


「何故、若者は三年で辞めるのか?」が話題になりまたしけど、現在の若者の一部は、企業にかつてのような期待をかけてはいないのではないか?ということです。

つまり、自分のキャリアプランの一部としての企業生活を望み、労働市場において成功するために(あるいは失敗しない為に)、幅広いスキルの獲得や、特に専門的なスキルの獲得を狙う人々です。


中嶋さんの記事にあるような知識労働者を指向する人達には、今後、こういう傾向が強くあらわれるんではないかと思われます。


日本経済は、もう永遠に変ってしまったわけですが、それと同時に、労働者の側も変ってしまったんですね。


今後、ゆっくりだとは思いますが、この傾向は進むと思います。現状のところ、仙石さんが、

「それが自身の人生にどう役に立つか、筋道だった考えを持っているわけではないことに改めて驚かされます。」



と仰っているわけですが、そうである理由は、労働市場における変化が終りきっていないからではないか、と思います。


雇用保証か、所得保証か、それともキャリアプランニングに優れた企業か。それをはっきりと、意識できないんでしょう。先行きが不透明な時代ですから、それは仕方ないんだと思いますけど。特に変化の激しい業界では。


個人的には、絶え間ない競争と技術革新が当たり前の状況になりつつある今、日本では、今後、「長期雇用の保証」を行なえる会社か、「労働者に労働市場での価値向上を付加できる」会社が、人気を集めるのではないかと思います。日本では、所得保証のほうは、あんまし労働者は求めてない感じなので、そっちはあまり盛り上がらないんではないでしょうか。


労働者は、それをしっかり見極めて就職を行なう必要がありますし、同じように、それが今後の労働者のトレンドだとしたら、それを用意できる企業がよい人員を確保できることになると思われます。


あと、ウェルフェアキュピタリズム以降のアメリカ労使関係とか、日本の経営やコーポレートガバナンス、人事関連のお話もしたかったのですが、それは今後。


本日はこのあたりで。ではでは。




タグ:労働 歴史
この記事へのコメント
トレードオフの言葉の使い方が違ってません?
Posted by fester at 2007年05月21日 22:05
You put the lime in the cocnuot and drink the article up.
Posted by VgLVDkDOrmM at 2012年11月21日 06:48
Posted by BwSyeIpucaChH at 2012年11月22日 09:22
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Posted by HyGrbJiLVcRxrCBhCc at 2012年11月22日 14:05
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