とにかく、松坂は、実績でも実力でも現状の日本最高の投手なので、これが通用しなかったら、日本人投手全滅という勢いなので、通用しなかったら困ってしまうんですが、七回1失点10三振と内容も素晴らしいデビューで、もう流石の一言でした。
ところで、梅田さんが、
My Life Between Silicon Valley and Japan - 松坂大輔 祝・素晴らしいメジャーデビュー!!!
こっちの記事で、お祝いしてましたが、
20代半ばのメジャーの超有望新人投手たちに比べて、球は必ずしもいちばん速いわけじゃないけど、総合的に完成されていて、きっとグレッグ・マダックスみたいな感じのピッチャーになっていくのだろうな、と思った。
マダックスとは、松坂、タイプがちょっと違うから、そうもいかないんじゃないかなーと。
で、本日は、メジャーの投手用語とか、日本との投手事情の違いとかについて、ちょっと書いてみようかなと。
で、なんだけど、まずは、梅田さんのコラムであったグレッグ・マダックスについて。
グレッグ・マダックス - Wikipedia
wikipediaに詳しく書いてあるんだけど、「90年代最高の投手」といわれた投手で、今も現役。球はそんなに速くない。というか、平均140キロ以下くらいで、メジャーみたいに160キロ出す投手が普通にいる世界では、遅い部類になってしまう。日本だと普通くらいなんだけども。
そんな彼が、1992年から1995年までの四年間、史上初めての4年連続サイ・ヤング賞を獲得できたのは、異常なまでのコントロールと被本塁打の少なさだった。1990年代といえば、メジャーには強打者がわんさかいた時代なので、これは特筆に値する。
要するに、「フォアボールでランナーためてホームラン」という投手が一番やってはいけない事をしなかったのである。又、wikipediaからの引用になるが、
マダックスはいたずらに三振をとる投手を賞賛するマスコミの姿勢に反発し、あるインタビューで「(自分にとって)27奪三振で完封と27球でのゲームのどっちの方がいいかって?27球の方がいいに決まっている。だってその方が早く帰れて家族ともっと過ごせるじゃないか」と答えている。
というように、「打たせて取るピッチング」が信条だった。ロジャー・クレメンスやランディ・ジョンソンのような、160キロ近い速球をもち三振を沢山とる大投手とは毛色が違っていて、ツーシームとサークルチェンジを絶妙なコントロールで投げ込んで抑える投手だった。(奪三振率はさほど高くない)
このあたり、松坂とはちょっと違う。松坂は、コントロールも最近はとてもいいけど(デビュー当初は四球が多かった)、三振を沢山とれる投手だから。
で、なんだけど、投手分業制が当たり前になったメジャーで、グレッグ・マダックスが頭角をあらわしたこともあって、「90球くらいで完投しちゃう投手」が、よい投手と見なされるようになった。(当たり前だけど100球で交代なんで、球数を節約できないと完投できない世界なんである)
このあたりが、メジャーの一つの特徴としてある。勿論、三振沢山とれる豪腕投手というのは、人気が高いのだけれど、投手分業制が進み、100球目安で交代を行なうメジャーでは、先発投手の「打たせて取るピッチング」というのの研究が進むことになったのである。
その結果、先発投手のスタイルにも影響がでた。100球交代だと、出来るだけ球数を少なくして打者を討ち取っていかないと持たないし、勝ち星を稼げない。
また、三振が多いが四球が多い投手は、球数が多くなり肩にも負担がかかる。
そうなると、打たせてとるピッチングが重要になる。特に、ゴロを打たせるのが最も好ましい。
フライを打たせるのは好ましくないという話にもなった。特に桁外れのパワーをもつ打者が多いメジャーでは、外野に飛んだら何が起こるかわからないからだ。
その結果、ゴロを打たせる球種をメジャーの投手達は、習得するようになっていった。これが1970年代以降。
そういった投手の進化の中で、生み出されていった球種が、速球では「ツーシーム」であり、変化球では、「サークルチェンジ」などとなった。
そして、そういった進化の中で、芸術品のレベルにまで完成されたのが、ツーシームとサークルチェンジを引っさげ「打たせて取る」ピッチングで90年代最高の投手と呼ばれたマダックスのピッチングだった。
日本でいう、ストレートとは、フォーシーム・ファストボールのことで、メジャーでストレートというのは、「打ちやすい棒球」の意味で使われるらしい。このあたりがちょっと違う。
ちなみに、フォーシームとは、きれいなバックスピンをしながら規則的な回転をして進む速球で、スピードはでるし、空振りは取れるものの、当たるとぶっ飛んでいく傾向がある。
一方で、ツーシーム・ファストボールは、回転が不規則なためにスピードはでにくいのだけれどホームプレートのあたりで、微妙に変化を起こす。そのため、打者の芯を外すのに効果的で、ゴロを打たせるのに適していた。(ランディ・ジョンソンとかはツーシームで150キロ後半だしてたけど)
でもって、次にメジャーの変化球の代表格サークルチェンジになるんだけど、これは、日本人投手でも井川慶や松坂大輔、メジャーではグレッグ・マダックスやペドロ・マルティネスが代表格。
チェンジアップ(打者の手元で沈む変化球)に似ているが、利き手の方向に微妙に曲がるのに特徴がある。ちなみに、どちらもホームプレートの直前あたりまでくると空気抵抗を受けて失速する。
で、この球は、速球と全く同じ腕の振りで投げれることから、球種がばれにくく、タイミングを外すのに適していたので、ゴロを打たせる良い球種なんである。
メジャーを代表するクローザーであるガニエなんかは、速球とサークルチェンジだけで打者を抑えてしまう。そのくらい強力な球。
日本では、変化球の中で、フォークとフォーシームのコンビネーションで打者を討ち取る投手(現役時代の佐々木、巨人の上原、豊田など)が多いが、メジャーでは、昨今、肩に負担がかかるフォークをあまりコーチが教えないらしい。実際、フォークを投げる投手は、故障が多い感じがするし、肩に負担をかけるので球速が落ちやすいようにも思う。上原のフォークは有名だけど、球速が若いころに比べて落ちたなぁと思う。それに、抜けたフォークはHRされやすい。パワーが凄いメジャーだと危険にもなったのだろう。
で、なんだけど、松坂と似ている投手となると、この間、レッドソックスの主砲オルティスが「ペドロを思い出した」というように、「地上最高の投手」とまで言われたペドロ・マルティネスのほうが投球スタイルとしては似ていると思う。
ペドロ・マルティネス - Wikipedia
もっとも、ペドロみたいに、ビーンボールをよく投げたりはしないけれどもね。
ペドロ・マルティネスの主な球種は、ファストボール(ツーシームもフォーシームも投げる)に加えサークルチェンジ、カットボール、カーブになる。
そのどれも一級品なんである。凄いファストボールを持っている投手、凄い多彩な変化球を持っている投手はメジャーには沢山いる。日本にもいる。
だが、二つを同時に持ち合わせることができた投手というのはそうはいない。
それを持ち合わせた全盛期のペドロ・マルティネスが「史上最高の投手」と呼ばれたのも当然だったと思う。
一方で、松坂になるんだけど、主な球種はフォーシーム、サークルチェンジ、カットボール、スライダーになる。
http://npb-db.hp.infoseek.co.jp/p004.html
こちらのページで2004年度の松坂の球種別の被打率などを見れるけれども、
ストレート .257
スライダー .217
高速スライダー .246
(高速スライダーとカットボールの違いが今でもイマイチわからないけれど、とりあえずこれで)
チェンジアップ .259
となっていて、どの球種も一級品であることがわかる。カーブとフォークもあるけど、球数が少ないので、とりあえず除外。
上記のページでは、他の投手の成績もみれるわけだけど、松坂のように4個の球種で被打率が250前後という投手はほとんどいない。ここが松坂の凄さで、メジャーレベルでも通用する球を四種類もっているわけである。こういう投手は、本当に滅多にいない。被打率が250前後という数字は、普通の投手の決め球レベルで、それが四種類あるときたら、まず打てない。
ちなみに、松坂の決め球はスライダーと言われるけど、日本だと、松坂より凄いスライダーを投げる投手にソフトバンクの新垣がいる。
上記のページのデータにもそれがあらわれていて、スライダーの被打率が.164と桁違いのレベルになっている。
その球を日米野球で来日したメジャーバッターが、いきなり打ってしまった時にはおどいたけど。その後、松坂がメジャー相手に「スライダーは投げたくなかった」っていってたのには、妙に納得した覚えがある。もっと、今回の登板では投げてたけど。
あと、メジャーの打者が「スライダー、ファストボール、チェンジアップどれも良くて的を絞れなかった」云々とインタビューで答えていたもの印象的だった覚えがある。
松坂が、これから、どういう風にメジャーに順応していくかはわからないけれど、どちらかというと、ぺドロ・マルティネスのような形で順応していくんじゃないかと思う。
松坂のフォーシームは凄いけれど、それでもメジャーの打者にはスタンドに運ばれてしまうケースが多いと思う。前回の登板でもHR打たれていたけど、やはりメジャーの打者はパワーが違う。150キロのフォーシームがスタンドに運ばれてしまう世界なんだからしょうがないっちゃしょうがないけど。
ただ、松坂は他の球種も素晴らしい。決め球レベルの変化球が3種類あるわけだし、向こうでは、おそらく「多彩な投球ができる大投手」として記憶されることになるのではないかと思っている。