というわけで、今日は、「豚もおだてりゃ木に登る」ならぬ「人をおだてると生産性が上がる」というお話ね。それと、人間関係が組織の基本という当たり前の話。まぁ、物凄く噛み砕いた話で、大まかな言い方だし、当たり前の話というか。
Life is beautiful: なぜ日本企業による米国企業の買収がしばしば失敗に終わるのか
実は、この中嶋さんのエントリを読んだ時に、書こうと思っていた話なんだけど、何か、だらだらしてしまい、あとであとで思っているうちに、
電通「鬼十則」、そして電通「裏十則」 - GIGAZINE
ギガジンで、こんな話がでて、そうそうこれこれと思っていたら、
小野和俊のブログ:IT業界の大企業での生々しい話を5つほど
小野さんのブログでも、こんな話が出て、そんでもって、
My Life Between Silicon Valley and Japan - 直感を信じろ、自分を信じろ、好きを貫け、人を褒めろ、人の粗探ししてる暇があったら自分で何かやれ。
梅田さんが、ブログで、こんな記事をアップしてたわけね。
えーと、これらの記事は、企業や組織における人事管理と生産性の問題に繋がる記事で、上記の記事を読んでから、以下の話を読んでいただける助かります。
で、なんだけど、まず、中嶋さんとこのエントリからの引用になるんだけど、
アメリカで会社を経営する時に一番難しいのは、そんな環境でどうやって優秀な人たちを会社に雇い、かつ、会社のために一生懸命働いてもらうか、である。給料をたくさん払って繋ぎ止めるというのももちろん一つの方法だが、よほど儲かっている会社でなければそんな方法では経営が成り立たないし、へたをすると仕事もしない単なる給料泥棒を作り出してしまう。そこで、給料以外の部分の「ストックオプション・福利厚生・やりがい・夢の共有・キャリアップ」などなどを、それぞれの人に適した形で提供して「会社のために一生懸命に働くに十分なインセンティブ」を与えなければならないのだが、これがとても難しいのだ(実際にアメリカ人の部下を抱えて苦労している私が言うのだから本当だ^^;)。
というのがある。経営者の仕事というのは、大きく分けて、戦略の策定と組織管理の二つになる。で、前者はともかくとして、後者が、今日のお話の主題になる。
どんな会社でも、労働者の生産性をあげるためには、どうしたらいいかを考える。これは当たり前。
であるが、そのために、一体、どうしたらいいだろうか?「良い仕事にはお金を沢山払う」というのは、非常によい方法に一見見える。が、実は、これは、必ずしも上手くいかなかったりもする。
金銭的インセンティブを用意しても、全くといっていいほど、労働者の生産性が上がらない場合がある。そういう話の論拠になっているのが、有名なホーソン実験。
ホーソン実験
ホーソン実験
ホーソン実験
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
幾つかのリンクを紹介しておくけれど、この実験は、企業の人事管理を行なう場合に、重要なことを教えてくれる。
ホーソン実験は、照明実験、リレー組み立て実験、面接実験、バンク配線作業実験の四つからなる。実験目的としては、上記の記事にあるように、フォード生産システム内において、さらなる生産性の上昇のために、いかなる要素が決定的なのかを調べたものとなる。
かいつまんで、その実験からわかったことを書き出すけれど、、照明実験、リレー組み立て実験から明らかになった事は、工場での照明、温度、湿度、休憩時間などの客観的な労働条件を変化させても、労働者の生産性には、有意な変化が見られなかったんである。
さらに衝撃的だったのは、バンク配線作業実験の結果である。
上記のページからの引用になるが、
この実験は、バンク配線の選別と接続の作業を、配線工、ハンダづけ工、検査工のお互いに密接にかかわり合う3つのグループに分けて観察するというものであった。
この実験は、集団を1つの単位として支払われる集団奨励給制度を用いて行われたため、労働者間の協力的な生産性の上昇が期待されるものであったが、実際の結果は、
@集団における各個人は各自の生産高を制限していた、
A集団は経営者の標準よりもかなり低い一日の標準作業を設定していた、
B部門別生産高記録に粉飾があった、
Cその粉飾は、実際の生産高と記録された生産高との間と、標準作業時間と記録された作業時間との間に存在していた、
D品質記録の分析から、それが配線工やハンダづけ工によってなされた仕事の質だけではなく、彼らと検査工との間の個人的な関係をも反映していることがわかった、
E様々な配線工の週平均の時間当たり生産高の差異は作業遂行能力の差異を反映したものではなかった、
などであった(Roethlisberger and Dickson, pp.379-548)。
以上のような結果から、レスリスバーガーは、この集団には、
@仕事に精をだしすぎてはならない(がっつき)、
A仕事を怠けすぎてはならない(さぼり屋)、
B仲間の誰かが迷惑するようなことを上長にしゃべってはならない(つげぐち野郎)、
Cあまり他人におせっかいをしてはならない、
といった基本的感情が働いていたことを指摘している(Roethlisberger, 27頁)。
という結果が明らかにされたのである。
バンク配線作業実験から分かることは重要で、職場内には、しばしばフォーマルなルールでなく、インフォーマルなルールが存在しており、それは、場合によっては、「会社のために一生懸命に働くに十分なインセンティブ」=集団奨励給制度があったとしても、集団での生産性を下げる事があるという事である。
この実験では、集団内に「@仕事に精をだしすぎてはならない(がっつき)」と呼ばれるインフォーマルなルールが存在していた為、集団奨励給制度が機能しなかったのである。
他の誰かが一生懸命働けば、自分の給与も上がる可能性があるのに、職場内の人間関係故に、そういった行動は排除されたわけである。
ギガジンで、紹介されていた
裏十則 | Blog | nozomu.net - 吉田望事務所 -
1)仕事は自ら創るな。みんなでつぶされる。
2)仕事は先手先手と働きかけていくな。疲れるだけだ。
3)大きな仕事と取り組むな。大きな仕事は己に責任ばかりふりかかる。
4)難しい仕事を狙うな。これを成し遂げようとしても誰も助けてくれない。
5)取り組んだらすぐ放せ。馬鹿にされても放せ、火傷をする前に…。
6)周囲を引きずり回すな。引きずっている間に、いつの間にか皆の鼻つまみ者になる。
7)計画を持つな。長期の計画を持つと、怒りと苛立ちと、そして空しい失望と倦怠が生まれる。
8)自信を持つな。自信を持つから君の仕事は煙たがられ嫌がられ、そしてついには誰からも相手にされなくなる。
9)頭は常に全回転。八方に気を配って、一分の真実も語ってはならぬ。ゴマスリとはそのようなものだ。
10)摩擦を恐れよ。摩擦はトラブルの母、減点の肥料だ。でないと君は築地のドンキホーテになる。
は、パロディではあるが、そういったシステムの典型であるといってよい。つまり、組織的な労働では、各個人が各自の生産高を制限させられるようなインフォーマルな力が働く事があるのである。たとえ、集団での労働への金銭的インセンティブがあったとしても、である。
人間関係において他の人の顔をたてるために、わざと自分の労働生産性を低くする、仕事にわざと精を出さない、おせっかいはしない。
そういった状況は、そこかしこで見られると思う。これは、ホーソン実験による観察結果と一致する点である。
つまり、組織においては、客観的、物理的な作業環境でなく、人間関係という主観的な部分が能率に大きく影響することが確認されたということなのである。
さらに、品質記録の分析から、仕事の評価には、客観的な能率だけでなく、管理者と労働者の間の個人的な関係が反映されることが明らかになっている。
つまり、人事評価には、えこひいきが含まれていることがはっきりしたわけである。
また、労働者集団内では結束し(告げ口しないなど)、管理者に対しては裏切る(生産高の制限)といった集団的な行動をすることも明らかになった。
このホーソン実験を受けて、発達したのが、「人間関係論」と呼ばれる労使関係アプローチとなり、組織管理、人事管理においては、そうしたアプローチが有効とされると理解されるようになった。
この実験をうけて、監督者教育,提案制度,夢の共有やキャリアップ、社内レクリエーションなどが企業内に取り入られていくとになるのである。
監督者教育は、極論すれば「豚もおだてりゃ木に登る」である。観察者、つまりは管理職などが、部下に対して、強い興味や注目をしている場合に、労働者の生産性が上がることが明らかになったので、監督者には、そういった方向でマネジメントを行なうように教育が行なわれるようになったわけである。
また、提案制度・夢の共有・キャリアップ・社内レクリエーションなどは、インフォーマルな組織とフォーマルな組織の目的を一致させることを目的とする。この二つの目的が分離している場合、インフォーマルな組織は、生産性を自ら制限する事が明らかになったからでもある。
小野さんのブログで、
2. 人事評価制度の歪みを解消するためにあえて優秀でない人材を採用
なんて話があったが、人事管理において、部下の仕事ぶりを評価しなければならないのは当然なのだが、それが、職場の人間関係の基礎となるインフォーマルなルールとの対立や、働くためのインセンティブを壊してしまうようでは話にならない。
仕事に対して、会社からの承認をもらえない場合、そのメンバーの生産性は下がるのである(というか自ら下げてしまう)。であるから、優秀な人材を集めたプロジェクトなどでは、特に、個人的な経歴に気をつけて評価と承認を与えないと(優秀な人間はこれを気にするんだから)、不満と生産性の減少に繋がってしまうのである。
というわけで、梅田さんの
直感を信じろ、自分を信じろ、好きを貫け、人を褒めろ、人の粗探ししてる暇があったら自分で何かやれ
というのは、ホーソン実験で明らかになった「職場での生産性を決定するのは人間関係」という結果からみれば、非常に納得のいく話なんである。特に、「自分を信じろ、好きを貫け、人を褒めろ」という部分である。
フォーマルな組織とインフォーマルな組織の目的が一致している時に、労働者の生産性は最大化されるのであれば、労働者が好きな仕事につくことほど、よい話はないし、自分を信じることは、その前提となる。
また、人を褒める(おべっかではない)というのは、他人に対しての承認であり、他人から承認をうけた場合、その人は、非常によい生産性の上昇をみせるわけであるから、良いことをしている人間については、遠慮なく褒めてあげるのがよいわけである。
そして、インフォーマルな人間関係が組織の生産性に大きな影響を及ぼすことが明らかである以上は、インフォーマルな組織のルールが、フォーマルな組織のルールを損なわないような状況でマネジメントをすることが重要になる。
これが出来ていないと、褒めてもしょうがない。何故なら、組織内で、生産性を下げるような圧力、あるいは不満が噴出するからである。
色々あるが、日本という国の中では、これが蔓延していると思うこともある。フォーマルなルールとインフォーマルなルールが対立しているのである。
@仕事に精をだしすぎてはならない(がっつき)
A仕事を怠けすぎてはならない(さぼり屋)
の二つについては、しばしば見かけるんである。つまりは、「怠けすぎるな、でも働きすぎるな」である。結果として、生産性の高い人間は、しばしば、インフォーマルな力が働いて締め出される。
そして、組織内では、官僚化がいくところまでいくと、自分たちの利害を最優先しようとする。つまりは、既存の集団利益を最大化する。(仲間内では結束し、それ以外には集団で立ち向かうという戦略)これが始まると、自分たちの利害を最優先する為に、企業の利害を二の次にしてしまうのである。
1、自分達の地位をまもる為に、新規参入の優秀な人間は潰す
2、既存の自分達をよりよく見せるために、集団内に優秀でない人間を雇いいれる
という結果に行き着いてしまう。結果として、全体としての生産性は下がってしまうのである。小野さんのブログにあった話は、これの一歩手前だなーと思って読んでいたが。相対的な地位の安定化とでもいおうか。組織内でのマネジメントが上手く行なわれていないと、組織内におけるインフォーマルな力が働いて、生産性を下げるような圧力がかかるのである。
僕は、集団内で、他人の粗探しをするような人間をあまりよく思っていない。他人の欠点を指摘して、それを直すことで、全体での生産性が上がるなら良い。それは有益である。こちらはいい。
であるが、他人の欠点を指摘することで、自分の地位を相対的に上げようとする人がいる場合もある。これは、全く役に立たないどころか、有害にしかならない。(これが行くとこまで行くと社内政治となる)
というわけで、管理職であったり、部下の生産性に気をつかわないといけないという人は、ホーソン実験の話や人間関係次第で、職場の生産性は上がりもすれば下がりもするんだよ、という話を知っておいて欲しかったので書いてみた次第。
職場の生産性を上げたいのであれば、フォーマルなルールや職場環境などの改善でなく、インフォーマルな職場の人間関係を中心として改善したほうが、高い効果が望めますよ、というお話なのでした。
当たり前だけど、社員の目的意識と会社の目的が一致している場合に、最も社員の生産性は高くなります、それから管理者による承認(褒め行為)は、そのために、非常に有効ですよ、というお話なのでした。
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