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2005年05月14日

二項対立がもたらすあれこれのお話

今回のコラムは以下の四つの記事をお読み下さってから
お読みいただけると助かります。

松岡さんの「すちゃらかな日々」から二本、

JR西日本を恫喝した「髭記者」の実名にたかるブログ・スクラム
フリーランスは「人間じゃない」のか? 文化レベルを露呈したTBS盗用問題の実態


WIREDから二本
米大統領選:保守系ブロガーから学者に集中砲火(上)
米大統領選:保守系ブロガーから学者に集中砲火(下)


松岡さんの所で扱われているブログスクラムと、
WIREDのニュースで扱われているブログスクラムには
非常に多くの共通点が見られると思います。

松岡さんがそのものズバリ指摘されてますが、

まず既存メディアがいっせいに報道し、メディア・スクラムが起こるに決まってる。ブログも同じように事件を取り上げ、似たような文面があふれ返るんだろう──。案の定、想像通りだ。うんざりである。

「JR西日本現象」をおさらいすると、こんなふうだ。まず既存メディアが第一報を流す。次に原因をめぐって第二報が続いた。置石だ、過密ダイヤだ、過剰な定時運行だ、と推測だらけの情報が飛び交う。

 一方、ボウリング大会がどうの、旅行がどうの、と観衆の「情動」に訴えかけるどーでもいい批判記事も続発した。JR西日本の社員がやったことは、すべて「悪」にされるマスヒステリー状態である。


こういう状況です。

こういうのは、自分達の分野、
つまりエンタメ業が寄生している部分で
簡単に、これの構造部分だけ述べておきます。

狙いは「感情連鎖」を起こすことにあります。

構造分析しますが
まず、二つの明確な立場があるのが前提になります。

JRの場合は、

事故を起こしたJR⇔被害者

「米大統領選:保守系ブロガーから学者に集中砲火」の場合は

保守派⇔リベラル派

となりました。

深く、調査していけば、こんな単純な対立に一本化して
いい問題ではないのですが、単純化して、可視化できる
構造を作らないと、大多数の人間は動きません。

そういう構造にしないと「理解できない」人間が
多数なのです。マスメディアやエンタメが単純な二項対立を好むのは
このせいです。

さて、情報を流す側は、マスメディアに関しては、
第三者、つまり、中立の側でニュースを流すのを
前提としています。ところが、今回の件では
見事に、被害者側でニュースを流しています。

上位構造は下部構造に依存しますので
マスメディアのニュースの流し方というのは
読者の認識機能に依存します。

それゆえ、この手の事故が起こると
読者にわかりやすいように、単純な二項対立を
作った上で、読者の側で記事を書きます。

それ自体は、「売るため」には仕方ない事と
言えるのですが、問題はその後になります。

エンタメでも二項対立を使います。
それが、読者に一番わかりやすいからです。

でも、それだけじゃありません。
二項対立の、一番の利点は、読者に
「感情の連鎖」を起こすのが一番簡単な手法であるからです。

二つの立場を明確にして、一方による他方への攻撃という
あらすじ、これは、ほぼ全てのエンタメで共通する手口です。

で、なんで、こういう手口を使うかというと、
それは読者をある種の「感情的緊張状態」にする事が可能だからです。

例えば、ですが、
「大人に虐待される子供」とかが二項対立の典型例です。

こういった状況を見せられると人間の大部分、
数字で表すなら40%ないし60%の人間は
感情的に「弛緩」状態から「緊張」状態になります。

ボーっとしている状態から「怒り」だとか「悲しみ」の状態に
変わります。

エンタメでは、人が「弛緩」状態になっている状態から
いかにこういった「緊張」状態に移行させるかが、
作家の力の見せ所になります。

「弛緩」状態とは、つまり退屈な状態であって、
この状態には、人間は長い時間耐え切れません。

ですから、そういった状況を擬似的に
解消してやる為に「緊張」状態にします。

そして、「緊張」状態におかれたとしても、
この状態に、人間は耐えられません。
それゆえ、その状態を打破するために、
必ず、何らかの行動にでます。

「虐待されている子供」を見たら、人は
怒ったり、泣いたりして、緊張状態を打破しようとします。

エンタメでは、読者の変わりに、主人公が
「虐待されている子供」を助ける事になります。
それによって、読者の緊張状態が軽減されます。

勿論、悲劇形式の物語の場合は
子供が助からずに死んじゃう場合もあります。
これは、これでありです。ある種の喪失感を読者に持たせることが
できれば、それはそれで成功だからです
とにかく、弛緩状態というのは、退屈な状態でして、
その状態を別の状態にする事が至上命題となるわけです。

問題は、この手法が現実で行われた場合でして。

超自然的な力や馬鹿げたほどの強運をもつ主人公のいない現実世界では
この「緊張状態」に人々が移行した場合、その状態を
解こうとして、人々の怒りが、現実の人間に
向かうって事です。

JR問題では、「人殺し」JRと被害者というニ項対立が完成したことにより
人々の怒りがJRに向いました。

その後で、「人殺し」JRの部分が報道被害を繰り返すマスコミの
にとって変わって、ブログスクラムになりました。

「米大統領選:保守系ブロガーから学者に集中砲火」では
嘘つき学者⇔保守派という二項対立が完成し、
「嘘つき」という部分が、彼らの怒りをかきたて、
それがまた、彼らの攻撃を正当化する免罪符となりました。


自分達が利用している人間心理が現実の世界では
どれだけ凶悪な結果を招くかと知りながら、
我々は使っています。

でも、やめれません。それが飯のタネなので。

エンタメ業に関わる人間の社会的地位が低いのが
せめてもの救いです。
我々のやっている事は、恐ろしく非道徳的ですから。

マスコミがそういった心理を、意識的にしろ
無意識的にしろ使っているかどうかは、
担当者に聞かないとわかりません。
(我々は意図的に使っています)

ジャーナリズムの中立性というのは
二項対立のもたらす攻撃性を避ける為には
必要不可欠な部分があるのですが、
マスメディアには「売る」という至上命題があるので
どうしても、こいつのせいで上手く働いていません。

で、ブログや掲示板はどうか、というと、
ブログには「中立」という概念がない。
その為、二項対立が完成してしまうと
簡単にブログスクラム、祭りが起こってしまう。

ブログや掲示板のようなネットで簡単にオンラインネットワークが
作られる世界では、少なからず、中立の原則を守るという
意思を使用者がもたないと大変危険なわけです。

いずれ、ネットでのマナーにおいての
教育体系が作られ、教育分野に取り込まれるとは思いますが
それまでは、ネット上は百鬼夜行状態でしょうね。

で、最後の〆が松岡さんの
「フリーランスは「人間じゃない」のか? 文化レベルを露呈したTBS盗用問題の実態 」
から。

このコラムで扱うには蛇足なんだけども、
アメリカで保守派ブロガーから総攻撃食らった
ヘイリー準教授の例と日本の今回の盗用記者の例は、
日本とアメリカの署名制度に関しての違いを浮き彫りにするので
扱う事に。

名前を出せば、ヘイリー教授のように
リンチじみたブログスクラムで
「一生ものの傷を負う」事になりかねない。

現状の百鬼夜行状態のネットという情報発信媒体が幅を
きかせている状態では、実名で書くと言うのは
物凄く勇気がいる。

単純な二項対立を作られて悪役にされたあげく、
実名を調べ上げられて、リアルで攻撃にあった被害者なんて
2ちゃんの祭りからブログの炎上にいたるまで
そこいらに転がっている。

署名記事というのは、必要だとは思うし、
日本でもそうなって欲しいが、
日本のような村社会では、変な事をいうと「村八分」にされて
しまう危険性もあるし、ちょっと考えてしまう事である。

日本は法治国家であるべきで、リンチじみた事を
僕は望まない。ただし、この村社会であることが
犯罪発生率を低く抑えている部分があるのも事実なので
これまた微妙な話になるわけだが。

盗用は許されていないので、責任は問われるべきだ。
フリーランスのせいにして、組織で個人を守るなんてのは
おかしい。ヘイリー教授の場合と違って、
こいつは責任の所在がはっきりしている。

いい悪いではなく、盗用はルール違反であって
ルール違反をしたなら、ペナルティがかされる。

日本の署名記事の是非は別として、この件については
適正な処分が下されるべきだ。

その処分が適正かどうかが、これから問題になる所だと
思う。

ただ、厄介な事に、その処分をするのが、
同じチームに属する人間で審判のような第三者では
ないって事だろうか。

まとまりの無いエントリになっちゃいましたが、今日はここまで。


posted by pal at 16:51 | Comment(2) | TrackBack(0) | コラム このエントリーを含むはてなブックマーク | 編集
この記事へのコメント
こんにちは。

私のエントリーを取り上げていただき、ありがとうごさいます。分析を拝読しましたが、確かに洗脳みたいなものですね。マスコミのうち少なくない数の媒体では、(明確な理論に基づいているかどうかは別にして)売るために意図的にやっています。

また署名制度に関しては、私自身がずっと署名で通していますので自分の考えを述べました。ただ、おっしゃる通りこれはむずかしい問題で、取材対象によってはリスクを伴います。相手と揉める場合もありますし、読者を敵に回すことも多いです。

現に私は実名でブログを書いていますが、私のブログは私と実際に仕事上のおつきあいのある編集者の方や、メディア関係の方も読んでおられます。なので内容によっては、「それはウチに対する批判か?」と誤解を受ける可能性もありえます。で、私はフリーランスですから、仕事の依頼がこなくなればジ・エンドです。その意味では、かなりのリスクを背負っていますね(笑)。

それではまた。
Posted by 松岡美樹 at 2005年05月14日 18:25
コメント、ありがとうございます。

ネットで実名を出すってのは
すごい危険な事なんで
実名でブログを書いている方々ってのは
ホント凄いですよ。
Posted by pal@管理人 at 2005年05月15日 19:28
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