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2007年01月07日

書評「タイアップの歌謡史」

本日は、速水健朗さん(犬にかぶらせろ!のgotanda6さん)に「タイアップの歌謡史」を献本して頂いたので、そちらの書評をしてみようかと思います。




ついでにですが、もう一つ、池田先生(池田信夫 blog )の「電波利権」も絡めて、お話したいと思います。





現在、音楽産業やメディア産業は、インターネットに代表されるデジタル情報流通の発展によって、大きな産業構造自体の転換期にあるわけで、それに対応して、様々な議論がおこなわれるようになってきています。


昨今、はてなブックマークなどで、著作権関連のエントリが人気を博しているのは、そういう事情が一つにはあるでしょう。


著作権は、メディア・音楽産業にとって、なくてはならない権利でした。と、同時に、そのシステム自体が、インターネット時代にはいり、その限界を見せてきており、非効率さを露呈してきている時期が今でもあります。


現在の状況だけで、このような問題を整理しようとすると、しばしば近視眼的になりすぎてしまう事があります。

そういう問題を整理するとき、過去、どのような形で、音楽産業が発展してきたか、メディア産業が発展してきたか、そして、放送というシステムが発展してきたかを知ることは、非常に有益な示唆を与えてくれます。


そういう示唆を与えてくれるという点で、上記の二冊の本は、非常に有益な本であると思います。


結局ですが、この問題は、究極的には、「新しい情報配布・コピーツールは創作への投資を促進するか否か?」という点に集約されます。



音楽・メディア産業の歴史は、それすなわち、情報配布・コピーツールの発展の歴史でもあります。出版の大規模化・ラジオにはじまる電波をつかった情報発信の低コスト化は、その都度、産業構造に大規模な変化をもたらしてきたからです。

そう、今、インターネットの発展によって、情報発信の低コストが行なわれ、産業構造に大きな変化の時が訪れように。



音楽産業の実験

いま音楽産業で起こっている紛争は、そのうち映像にも、またあらゆるメディアにも起こるだろう。その意味で、音楽産業は「ポスト工業化社会」のルールの実験場である




池田先生のところのブログでは、音楽関係の記事が結構多いのですが、その一つからの引用です。


今、まさに、我々は、過渡期にあり、既存のプレーヤーと新たに勃興したプレーヤーとの間の勢力争いの只中にあります。




Am化するFM


問題は、FMラジオに割り当てられた帯域のほとんどが空いたままになっているところにある。3年ほど前、FCCの高官と食事したとき、「東京ではFMは何 局ぐらい聞けるのか?」と質問されて「4局ぐらい」と答えたら、彼が驚いて「なぜだ?米国では、FMは12000局以上あるんだよ」と聞くので、「競争を 恐れるAM局が政府に圧力をかけて新規免許を出させないからだ」と答えたら、あきれていた。






このようなプレーヤー同士の勢力争いは、池田先生の所の記事にあるように、今に始まったことではありません。競争を恐れる勢力が政治と結託して、市場に新規参入することもしばしばです。

ただ、この手の独占は、歴史的に見て、ろくな結果を生みません。大抵、停滞と緩慢な業界縮小を生み出しています。


池田先生の「電波利権」は、現状の放送システムが、政治と旧来の生産体系に依存した既得権集団によって運営されることによって、インターネット時代においては、非効率の温床になっているという事を、放送の歴史を紐解きながら、論じています。

そして、著作権の延長問題や、youtubeのような新たなチャネルの勃興も、全て、ここを乗り越えられるかどうかになります。現状の、著作権システムや、放送システム、音楽配信システムは、密接に結びついていますが、それらは、現状、「非効率」になってきているんです。

そして、それは「機会損失コスト」を発生させているのではないか。



Winny事件の社会的コスト

日本は、昔のコンテンツを守る代償に新しい企業による富の創出を阻害し、莫大な損失をこうむっているのである。



そういう主張が出てきたわけなんです。




「新しい情報配布・コピーツールは創作への投資を促進するか否か?」



これを証明しないといけない時期なんですね。そして、それは、しばしば旧来の生産体系に依存したプレーヤーの価値破壊を伴うわけですが、全体としては、パイが増えるという事をも証明しないといけない。





過去、同じようなことが何度もありました。


「タイアップの歌謡史」では、そういう部分についての記述が歴史的にまとめられています。


映画やドラマ、特定の企業や商品と提携して作られた歌―――――――タイアップソング。
日本の戦後歌謡史は映画、ラジオ、CM、テレビドラマなどと結びついたタイアップソングの歴史でもあった





「タイアップの歌謡史」からの引用ですが、初期は、映画のような新たなメディアと、そして時期を経るにつれて、ラジオ、CM,テレビドラマと結びつくことによって、音楽産業は発展してきたんですね。


「新しい情報配布・コピーツールは創作への投資を促進するか否か?」という問いに対しては、今までは、「yes」という結果に終わったわけです。勿論、その歴史の中で、没落するプレーヤーもいましたが、全体としてパイは増えつづけてきたわけなんです。


「タイアップの歌謡史」は、そういう変遷を辿った本でもありまして、



レコード業界が映画業界とタイアップした時代(戦前から戦後)

音楽は、映画の主題歌と密接に結びついていた時代。レコードと映画館の時代。


TVCMとのタイアップが始まった時代(高度成長期)
 
白黒TVの普及と、トランジスタラジオの登場。カセットテープの普及。CMソングの時代。


イメージソングとカラーテレビ放送が始まった時代(高度成長期から1980年代)

日本最初のカラーテレビの放映は1960年。普及率は、1970年で7.1%、 1975年で73.1%と拡大。TVCMの発達とともに、CMソングからイメージソングの時代へ。

TVドラマとのタイアップが始まった時代(1980〜1990)

カラーテレビの普及とともに、TV業界も一大産業へと発展した結果、かつては映画と密接に結びついていた音楽は、アニメ・ドラマと密接に結びつき、CMでもイメージソングからタイアップソングの時代へ。CM・アニメ・ドラマは、音楽流通の重要なチャネルへ。

カラオケとCD、ウォークマンが登場。


ポストタイアップ時代

1998年を境に、CDが売れなくなる。同時に、TVCMの効果が減じ始め、ドラマの視聴率、紅白の視聴率も勢いが減り始める。


携帯電話の登場、PCの普及による違法コピーの流通、インターネットの登場、ipodの登場。

ダウンロードビジネスの伸張と広告戦略の終わり。より開かれ、透明性の高い広報の時代へ?



といった流れを丹念に追いながら、時代が生み出した音楽家、そして、その音楽、その音楽を金にかえるビジネスモデルを丹念に時系列に考察した構成になっています。

これを読むと、音楽ビジネスが、どういう風に、マスにリーチするために、TV・CM・ラジオなどと付き合ってきたのかがよくわかります。それは、持ちつ持たれつの関係であったことなども。

「タイアップの歌謡史」では、主に、タイアップや広告との関わりが主でしたが、電子機器の発達も絡めて欲しかったかなーというのが、心残りの部分ではあります。


この本を読むと、時代が移り、そして、イノベーションが起こって、様々な電子機器が一般に普及するにつれて、音楽の形態も、その時代時代で変わってきたのだという事がよくわかります。


歌謡曲の歴史であると共に、「タイアップの歌謡史」は、音楽のマーケティングの歴史でもあり、そして、音楽業界の興亡の歴史でもあります。


この本と併せて、「電波利権」や池田先生のブログを読むと、現状の音楽業界の成り立ちから、情報配布における放送と著作権などの問題点などについて、よく理解することが出来ると思うので、そちらに興味がある方は、是非。


最後に、

「インターネットは創作への投資を促進するか否か?」

という問題について、ですが、それはこれからの問題の一つです。


最も、簡単で誰でも思いつく解決方法は、youtubeのような媒体をプロモーションとして使い(TV、CM、ラジオが、音楽にとってのプロモーション手段であったようにネットもそれと割り切ってしまうわけです。それで今まで上手くまわってきたんだし)、ダウンロードビジネスやコンサート、デバイスの販売(ipodのような)で音楽家は儲けるという形でしょう。というか、ココくらいしか落としどころがない。


ハルヒのヒットにあるように、youtubeは、極めてプロモーションの場として強力な媒体です。深夜放送よりもずっと強力でしょうね。

最初から、TVに流すのでなく、youtubeにアニメ流して(ここはプロモーションと割り切る)、その後で、ダウンロード、DVD、グッズの販売といった形に、いくつかのアニメ会社は舵を切るかもしれないな、とも思っています。同じように音楽会社も。


初期の音楽とTVの関係のように。最初は、そういう感じだったんですね。このあたりは、タイアップの歌謡史をご覧下さい。そのあと、TV事業とデバイスとしてのTVの発達、記録媒体の発達と共に、ビジネス形態もすこしづつ変わっていったように、youtubeみたいなのも、回線速度の発達とデバイスの進化と共にビジネスモデルが少しづつ変わっていくんだと思っています。


とはいえ、ここは、すなわち、既存のTV,CM、ラジオのような事業者のパイを減らす事を意味しますから、おそらく、ここ数年で、youtube型の事業者は、それらと手を組むか、あるいは戦争するかの二択になるでしょう。

デバイスやチャネルの進化に伴って、旧来のプレーヤーと新規プレーヤーの戦争がおこったのは、過去に幾度もありました。映画業界とTV業界の戦争。ラジオとTV間の駆け引き。そして、今、TVとネットの間の緊張の高まり。


個人的には、平和裏にすめばいいと思っていますが、「タイアップの歌謡史」のなかでも、事業者間のパワーゲームについての記述があるように衝突は避けられないとも思っています。


本日はこのあたりで。


タグ:music
posted by pal at 14:20 | Comment(0) | TrackBack(0) | コラム このエントリーを含むはてなブックマーク | 編集
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