ちょっと前のニュースなんだけど、アップルの内部調査の結果、会計上の記載について、実際に違反があり、取締役の一人、フレッド・アンダーソンが辞任する事態に発展したってニュース。
で、以前、お世辞にも誉められないアップルの取締役の話って記事でアップルの取締役とコーポレートガバナンスの難点について書いておいたんだけど、本日は、その補足的に。
基本的には、コーポレートガバナンスが酷いからといって、その企業が悪いということにはならない。
バフェットのバークシャーハサウェイやジョブスのアップルは、コーポレートガバナンスの面から言えば、お世辞にも誉められない部分がある。
だが、どちらもいい企業だし、現在の業績も良い。だから、コーポレートガバナンスが良いか悪いかは、企業の評価に使えるものさしではないと言えるのかもしれない。
ただし。
昨今、市場を通してのファイナンスが増えてきている以上、企業の情報公開は非常に重要だし、CEOは、株主に対して最終責任がある。
そして、CEOの経営を監視する機関として取締役会は、真摯に仕事に取り組むことが望ましい。
取締役会は、企業の経営全てにいちいち口をはさんだりする必要はないけれど、株主の権利を守ってくれる唯一の機関だ。会社が倒産すれば、一番被害がでかいのは、実は株主で、残るのは紙の束だけになる。
また、CEOの経営をきちんと監視する機関があることは、従業員、他の企業のステークホルダーにとっても極めて好ましい。
企業の倒産原因で、圧倒的に多いのが、製品の販売不振(倒産の5割はこれ)で、次いで放漫経営と赤字の累積になる(それぞれ8〜10%程度)。
一従業員が、どれほど働いたところで、CEOの放漫経営をどうにかできる場合はほとんどないし、また、製品の販売不振や赤字の累積も、多くの場合、どうにもならない。それは、経営者が最終的にやる事業の意思決定の結果として現われてくることだからだ。
また、他の企業の買収、新規事業への参入については、取締役会の承認が必要になる。
そして、これらは、企業経営に非常に重要な意味をもつ。
取締役会が、きちんと機能していることは、株主だけでなく従業員やステークホルダーにとっても好ましいことなのである。
で、今回、アップルで起きた事についてなのだけれど、あそこのコーポレートガバナンスが酷いことは、前回の記事で述べたとおり。
で、記事で問題とされたストックオプションが、何でコーポレートガバナンスと関わってくるかっていうと、ストックオプションを付与する権限が、取締役会にあるから。
実は、ジョブスは、2000年にアップルの取締役会から2000万株のストックオプションを付与されている。(現在の株価に換算するといくらかは知らないけれど、現在相当な額になっているだろう)これ事態は、まぁ、いいとして。
問題は、2001年、アップルの株価が下落したんだけど、そこでさらに行使価格の低い750万株の追加ストックオプションが付与された事。
当時のアップルの株価は、ipodのブレイク前だったから、かなり低く、よい銘柄ではなかった。
こういうのは、好ましくない。本来、ストックオプションは優れた人材に報い、小さな企業でも優秀な人材を雇い入れるためのインセンティブとして始まったものなんだけれど、こういう形で、行使価格の低い新しいオプションをCEOに付与することは、経営者の経営責任、説明責任を免除するに等しい行為だからだ。
これでは、取締役会が機能しているとはいえない。
ジョブスが、小さな取締役会を作り、それを自分寄りの人物でかためているって話は、前回したけれど、そういう関係を利用したとしか思えない事例なんである。これは。
こういうのは、アップルに限った話ではなく、CEOが船が沈む前に取締役会に莫大な退職手当てを要求したり、莫大なストックオプションを要求したりして、それを取締役会が承認するなんてケースが他にもある。(取締役を子飼いで固めておくとこういう事が可能になる。又、財務状況が悪化しても、CEOを追い出したりしないケースもある)
今回のアップルのストックオプションの違反に関しては、そういうアップルの悪い点が噴出したケースだと思う。
取締役会がしっかりしてなかったせいで、こんな事態になり、アップルの企業イメージに少なからず悪いイメージを与えることにもなったし、株価にも影響がでた。
ジョブスの経営が悪いというわけではない。彼は、アップルを製品の販売不振から救ったからだ。これが最も重要な事だといえば、それまでなのだが、とはいえ、あの取締役会は、本当に頂けない。
ジョブスが、経営状況が悪くなった時期に、会社から莫大な退職金やその他の特権を持ち逃げするとは思わないが、取締役会は、それを承認してしまうようなメンツなんである。
これは、アップルの問題点であり、今後、ジョブスが、この取締役会にどういうメンツをいれるかで、改革の意図がどれほどのものかわかると思われる。