アップルの取締役の話。
Appleは「あちら側」とどう繋がるのか
日本の役員 vs Directors in the U.S.
上記、二つのエントリを読んで書くのを決心したんだけど。
えーと、まずなんだけど、
アップル、グーグルCEOのシュミット氏を取締役に選出
というニュースが始めにあったんだけど、アップルの取締役にグーグルCEOのシュミットさんが選ばれたって話。
で、なんだけど、それに対して、南方司さんが、エントリをあげて、(ちょっと引用させて頂くが)
Google CEOのEric Schmidt氏がAppleの取締役会に入った.別にGoogleがAppleを買った訳でも2社の提携が決まった訳でもないので,先走った分析をすることに躊躇いはある.とはいえ想像力を擽る組み合わせではある.ひとつ推察できることはAppleがGoogleの力を必要としており,Googleにとっても悪い話ではなかったということだろう.
という箇所に、ソノ後、弾さんが、
日本においては、ある会社の役員が別の会社の役員となることによって関係強化がはかられるということがよくあるが、合州国においては、利害相反の火種となりうる役員派遣はむしろ避けるべき事柄である
と突っ込みをいれ、
それから、
Appleの取締役会の他のメンバーを見ても、Jobsを除けば、Appleとはそれほど関係が親密でない会社のCEOばかりである。IntuitやGenentech、ましてやJ. CrewとAppleとの間に、特別な利害関係があるとでもいうのだろうか?
私自身は、だから今回の役員人事はあまり肯定的な評価は出来ない。AppleとGoogleは現時点でさえそれほど「遠いのか」ということがそこにある。両者が競合したり協調したりしうる分野は、他の役員の「ホーム」と比べてあまりにも多いのだから。
と言っておられるのだけど、Appleの取締役会のメンバーは、コーポレートガバナンスの面からいえば、酷さに定評があるので、これを補足しておく。
まず、Appleの取締役会は、7名で編成されている。
メンバーは、
http://www.apple.com/pr/bios/bod.html
こちらでみれるが、
Board of Directors
Fred D. Anderson
Partner, Elevation Partners
Former CFO, Apple Computer, Inc.
Bill Campbell
Chairman and former CEO
Intuit Corp.
Millard Drexler
Chairman and CEO
J. Crew
Albert Gore Jr.
Former Vice President of the United States
Steve Jobs
CEO, Apple
Arthur D. Levinson, Ph. D.
Chairman and CEO
Genentech
Dr. Eric Schmidt
CEO
Jerry York
Chairman, President and CEO
Harwinton Capital
となっている。
残念な話だけど、日本でもアメリカでも、企業のCEOは、取締役の人選に関して、非常に慎重になる。
理由は、取締役というのは、CEOを解任することができるからだ。
だから、メンバー選びに関して、自分寄りのメンバーを選ぶケースが多い。
そして、ジョブスに関しては、経歴をみれば分かるとおり、一度、取締役会議からアップルでの(会長職以外の)すべての仕事を剥奪された事がある。
こういった経歴があるため、彼は、アップルの取締役会議を、自分寄りのメンバーで固めている(としか思えない)
それぞれのメンバーで、ジョブス寄りの人物についてコメントするが、
まず、取締役の一人は、ジョブス本人。
次にJerry York。wikiに書いて歩けど、彼は、IBMとクライスラーのCFOを勤めていた人物で、一見、取締役として申し分のない人物だが、彼は、Micro WarehouseのCEOでもある。
そして、Micro Warehouseは、Appleの主要な取引先の一つだ。要するにだが、中立性が疑わしい。これでは、ジョブスがヘマをやらかしたときに、彼に文句をいえるかどうかわからない。首輪がついているようなものだ。
次に、Bill Campbell。
彼、実は、元アップルの役員だ。ジョブスと何らかの関係があると考えたほうがいい。っつーか、クラリス関連でアップルと揉め、その後、ジョブスが復帰すると同時に呼び戻された人だったはずだ。
ジョブスに逆らって進言できる人かっつーと疑問。しかも、この人、グーグルのアドバイザーをしているのである。
Millard Drexlerは、元GAPのCFOで、ジョブスはGAPの取締役を兼任していたはず。これは良くない。コーポレートガバナンスの面からいっても、こういう間柄は不適切だ。
Fred D. Anderson、彼の場合、すでにアップルのNews Releaseで難点が述べられている。
フレッド・アンダーソン、アップルの社外取締役に就任
「フレッドは業界でも有数の財務エキスパートとして広く認められており、今後もアップルの株主の利益のために、彼の指導と判断を仰ぎたいと考えています。社内にいた人間が社外取締役に就任することは最近では一般的ではありませんが、フレッドは例外であると考えています。」
そして、今回のEric Schmidtの取締役就任だけど、前述したようにグーグルのアドバイザーにBill Campbellがなっている点で、どうも雲行きが怪しい。
さらに最近、こんな事まで発覚してる。
アップルとCA、ストックオプション付与で不正が発覚 - CNET Japan
こんな事件があって、ジョブスも、取締役に、ちょっと新風添えて、透明性を高めようとしたのかもしれないけど、とにかく、アップルの取締役の一人がグーグルのアドバイザーを勤めていて、そこから取締役を一人つれてくるというのは頂けないと思う。
ジョブスがアップルに復帰してから行なったことは素晴らしい。だが、アップルの取締役会は、ジョブスが暴走した場合に、彼を解任したり、戦略や経営でおかしなことをし始めた場合に、彼を止められる人間がいない。
もっとも、この世にジョブスを止められる人間がいるかというと、その答えは、ノーなのだが。
とにかく、これはアップルが持っているリスクであり、アップルを見る際には、こういう箇所も見逃さないといいと思う。取締役の大半は、何らかの形でジョブスの息のかかった人間であり、アップルの製品はともかく、取締役は、恐ろしくオールドエコノミーな世界なのである。
そういうわけで、僕も弾さんに同意で、この就任は誉められない。
アップルとグーグルの提携とかそういうレベルの話でなくジョブスの取締役会議に呼ばれるということは、彼の取締役の人選を見る限り、彼のアップルという世界を補強する人物しか呼ばれないということなのだから。
ジョブスの功績、技術やデザインへの直観力は素晴らしい。だが、人格や他の面で難があるというのは、昔から言われてきたことだが、この部分が治ることは、多分、ないだろう。
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