池田先生のところで、携帯とSIMロックの話が出ていたので、便乗つーか尻馬して、本日は日本の携帯業界とPC-9801シリーズの話。
時々、日本の携帯市場はガラパゴス進化を遂げた場所だという主張をネットで目にする。
確かに、それはあるかもしれない。
ただ、これは、そんなに珍しいという例でもなく、1970年代から80年代まで日本のPC業界もそうだった。
日本でパソコンがブームになったのは、1980年代だったのだけれど、日本でパソコンが実用に耐えるほどになるには、日本語処理ができないといけなかった。
ところが、当時は、ソフトウェアだけで日本語処理ができなかった。なので、日本のPC市場では、漢字ROMといったハードウェアによって日本語処理を行なうようになった。
こういった仕組みが必要だったので、当時の日本のPC業界は、かなり特殊な進化を遂げることになった。特に、この日本語処理の障壁は、外国メーカーにとっては、厄介な参入障壁となった。これに跳ね返されて、80年代は、外国メーカーはなかなか日本市場に入り込めなかった。
そして、その進化の過程で、勝ち残ったのがNECのPC―9801シリーズで、事実上、これが市場をほぼ独占する段階までいった。
当時のpc-9801シリーズは、日本一のソフトウェア数をそろえ、関連書籍を充実させていた。
当時のPCというのは、現在の携帯やゲームハードと同じで、各メーカーごとにソフトウェアメーカーを垂直統合していた。つまりだけど、PC-9801シリーズで動くソフトウェアは、他のメーカーのPCでは動かなかったわけである。
そのため、一番多くのソフト、質のいいソフトが動くハードにはネットワーク効果が働く。
業界一位のゲームハードには、沢山のソフトが集まり、そして、そこに客も集中し、ハードもソフトも売れるという連鎖と同じである。
だから、売れたPCの母数が大きければ大きいほど、ソフトメーカーもそこの集まり、ユーザーもそこに集まるという連鎖がおきた。典型的なネットワーク効果、ネットワーク外部性である。
NECのPC-9801は、このネットワーク効果によって、日本の標準パソコンにのし上ったわけである。
ただ、この独占によって問題がおきた。価格が高値で安定してしまった事と競争が起こらなくなったので、技術革新のスピードが落ちてしまった事である。
典型的な独占企業の病だが、日本語処理という参入障壁とソフトとハードの垂直統合というビジネスモデルが有効な時代だったので、NECは、わが世の春を謳歌できた。
ところが、ここに爆雷が落ちてくる。
1989年に日本IBMによるDOS/VとDOS/V上で動作する日本語版Windows 3.0のリリースである。
これが、断絶の嵐となった決定的な要因は、それが日本語処理をソフトウェアのみで実現していた点とwindowsによるPC-9801のハードとソフトウェアの垂直統合の破壊にあった。
それ以前には、前述したように特殊なハードウェアで日本語処理をしていた。さらに、どこのメーカーもCPUはインテル、OSは、MS-DOSだったが、ソフトウェアの互換性がまったくなかった。
ただし、1989年以降、日本語処理がソフトウェアのみで出来るようになり、さらにwindows上では、アプリケーションソフトの大半は、PC-9801シリーズでも、PC/AT互換機上でも動いてしまう。
これが標準OSの力である。
ソフトウェアのみで日本語処理ができるようになり、さらにwindowsさえPCに入れておけばアプリケーションソフトの大半は、どのPCだろうが動くようになった。
これによって、事実上、PC-9801シリーズが持っていた最大の強みである日本語処理という参入障壁とソフトとハードの垂直統合というビジネスモデルが無効化されてしまったのである。
「ソフトを使いたいなら、うちのハードを使いなさい」
という時代が終わったのであった。
ユーザーは、PC-9801だろうと、IBMのマシンだろうと、コンパックのマシンだろうと、好きなのを選んで良くなったのである。
どれでも、windows入れておけば、必要なアプリケーションソフトは動くからだ。
これによって、業界地図が塗りかわった。それまで圧倒的なシェアを取っていたPC-9801の利点が全て無効化されたからだ。
さらに、海外メーカーでは水平分業が基本になっていたため、技術と価格競争が劇的に進んだ。98シリーズは、独占状態だったので、性能も価格も大したモノではなかった。
このあたりは、「パソコン世界の嵐」が簡単に読めて面白いので、そちらをどうぞ。MSを先ごろ引退された古川さんのエピソードも載ってます。
いくつか、文中から引用させて頂くけれども、当時のNECの高山取締役は
「日本にはウィンドウズは必要ありません。日本のパソコンにはMS-DOS用の良いアプリケーションソフトがたくさんあります」
「先生、98は一ヶ月に10万台ですよ。10万台です。どこのメーカーがそれだけ売ってますか。それだけ98はユーザーに信頼されているということではないですか」
「もっと速いプロセッサがあるじゃないかというと、マーケッティング・リサーチをして他のメーカーと比較すれば、この位の低速プロセッサで十分だというんですよ」
といった話がのっている。今になってみれば、その全てが間違いだったのだが、興味深い話である。ユーザーはwindowsを選び、速いプロセッサを求めていた。
さらにだが、当時のNECといったら、とんでもないことをしていた。
EPSONが、PC-9801シリーズのネットワーク効果には勝てないということで、98互換機を出したのだが、そこで、NECがえげつない手にでる。
http://www.din.or.jp/~charade/admins/32.html
上記のページに詳しいのだけれど、標準ハードの座を利用して、ライバルつぶしに、仕様をいじったりするなど、独占禁止法すれすれの手を使ったりもしていた。
この状況、実は、今の携帯業界にそっくりだと僕は思っている。
池田先生の話にしろ、まぁ、市場を独占状態にしているキャリアが、その地位を利用して独占的に高い利益をあげていたり、垂直統合を死守しようと色々やったりと。
問題は、結局、これがどこまでいくかである。
どうみても、現状のシステムはまずい。競争力がなくなるからだ。垂直統合のビジネスモデルによって独占された世界では、そうなってしまう。
携帯電話に定額IP化の波 米で「スカイプ」搭載型発売
次の大波というか、無料電話で僕もつかっているスカイプを搭載した携帯の話の記事を紹介しておくけれど、その最後の言葉、
「好むと好まざるとにかかわらず技術は進む。携帯でも定額料金が主流になる時が来るだろう。どうやってビジネスモデルをつくるか、いまから考えないと」
となる。
携帯は、どこでもネットに繋がる世界が実現すれば(こないだグーグルがサンフランシスコを無料Wi-Fiにしちゃおうなんていってたけど)無料化されてしまう可能性が大いにある。
Yahoo! Japanはソフトバンクと何を目指すのか――ヤフーに聞く (1/3)
世界に先駆け日本で始まる「モバイル検索市場」の新たな戦い(前編)
世界に先駆け日本で始まる「モバイル検索市場」の新たな戦い(後編)
他にも、携帯の今後について、参考になる記事を紹介しておくけれど、僕が危惧しているのは、現在の日本の携帯業界が、その排他的な状況から世界から取り残され、最終的に、海外から侵略によって、美味しいところを全部もっていかれてしまうというアレだ。
windowsがもたらしたPC-9801の死のような。
上記、三つのニュースには、共通点があって、それは
「ヤフーやgoogleは、どのキャリアにも等距離で接する意図」
が見えるということ。
Yahoo! Japanモバイル事業部事業部長の松本真尚氏のインタビューや、、auがGoogleと独占的な契約を結んでいないようで、ドコモの立ち上げる検索サービスの"複数社"の中にGoogleの名前があったことなどから、それが伺える。
要するに、これらの会社は、「闘う人たちに弾丸を売る作戦」なのだ。
なんとなく、これは、かつてのインテル、マイクロソフト、IBMの関係を彷彿とさせる。
IBMがPCというハード市場で、競合他社と血みどろの価格競争、性能競争をするなか、インテルとマイクロソフトは、その競争をしている全てのプレーヤーにOSとプロセッサーを売りつけて儲けつづけた。
PCメーカーが気が付いた時には、PC市場で儲かるのは、OSとプロセッサーだけになっていた。
携帯でも、同じことがおきそうな気がしないでもない。
他のメーカーと差別化するために、外部の協力者を仰ぎました。最初は、うまくいっていたのに、気が付いたら、自分のゲームは終わっていました。
キャリアは、そんなゲームに足を踏みいれているような気もする。