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2006年08月16日

IBMを帝王にした互換性というネットワーク外部性@連載コラム「web2.0といつか来た道」

前回の続きから。


IBMがコンピュータービジネスに参入したのは、1950年代半ばの話であり、ワトソンジュニアの英断によるものだった。この50億ドルを投じた賭けは「360」と呼ばれるプロジェクトになった。


これは、まったく新しいメインフレームコンピュータープロジェクトであり、大胆な計画だった。


この計画の凄い点は、


「過去のIBMの製品ラインおよび競合他社の製品全てを駆逐するもの」


だった事だ。


こういった、自社の製品ラインすら駆逐しかねないプロジェクトを平気で開始できるのが、当時のIBMの凄さである。


その理由を述べる前に、当時のメインフレームコンピューターの欠点を述べないといけない。





まず、1950年から1964年までは、当時のコンピューター各種には、二つの決定的な欠点があった。


一つ目は、真空管がコンピューターの中心に使われていたことだった。真空管は、壊れやすく、また場所をとった。これのせいでメインフレームはとてつもなく巨大なものとなってしまっていた。


また、当時のコンピュータ各種には、同一メーカーのそれであっても、設計仕様が異なり、それぞれで専用のOSとアプリケーションを使っていたので、ある機種から他の機種にソフトを移植することが非常に困難だったのである。


変な例えかもしれないが、コンピューターごとに独自化されたwindowsが、コンピューターごとに存在していたわけである。


ソフトウェアの互換性が、同一メーカーの機種であっても存在しなかったわけである。


このせいで、ユーザーは、新しくコンピューターを買うと、それまで使っていたソフトを新しいマシンで使うことができなかった。

この二つの不便を解消したのが、IBM360だった。


IBMシステム360と呼ばれた、この新しいメインフレームコンピューターは、集積回路技術を採用し、これによって真空管不要にした。


さらに画期的だったのが、360がコンピューターファミリーと呼ばれるようになる「360ファミリーのコンピューターは、全て同じ命令セットに対応する」というものである。


これのおかげで、ユーザーは、マシンを買い換えるごとに、新しい命令セットを覚えるだとか、ソフトを買い換えねばならないだとかいった手間から開放されたのである。


さらに、360ファミリーならば、同一のOSが走るので、ユーザーは、アプリケーションや周辺機器をある機種からある機種へと自由に移せるようになった。


この「ファミリー・シリーズ」というコンセプトで作られたメインフレームコンピューターシステムは、業界地図を完全に塗り替え、1960年代から70年代にかけて70パーセント近い市場シェアを獲得し、ついには政府が独占禁止法でIBMを告発するまでに至る。


(ちなみに、このプロジェクトは、特にOSに関連したそれは、非常にうまくいかなかった。このあたりは人月の神話などに詳しい)


ここで、重要なのが、「ネットワーク外部性」になる。


ネットワーク外部性とは、ネットワークの利用者数が多ければ多いほど、その製品・サービスの利用によって得られる効用や利用価値が高くなるというものだ。


その結果、ネットワーク外部性が働く製品・サービスは、利用者が増えれば増えるほど価値が高まり、そのためさらに利用者が増えるという“正のフィードバック”が発生する。


また、その価値は、「メットカーフの法則」によれば、ネットワークの『価値』は、そのネットワークにつながれている端末数(ユーザー数)の二乗に比例して拡大するとも言われる。


つまりだが、製品・サービスの自身の価値を超えて、ネットワークに接続されている製品・サービスの多さそのものが、最大の資産価値になっていくのである。ネットワーク外部性が働く場所では。


メインフレームに話を戻そう。


メインフレームコンピューターで、IBM360が他を圧倒できた理由の一つは、ソフトウェアの互換性を保証した為、IBM360ファミリーシリーズ間の間でネットワーク効果が生まれはじめた点にある。


一つのソフトウェアの使用方法を覚えれば、その後、IBM360ファミリーの全てで利用できたからだ。さらに、IBM360の製品であれば、周辺機器を自由に移すことができた。


このIBM360ファミリー同士のソフトウェア互換性というネットワークの要を支配したIBMは1970年代後半まで、市場を独占し続け、競合他社の挑戦を退けた。


「メットカーフの法則」、つまりネットワークの『価値』は、そのネットワークにつながれている端末数(ユーザー数)の二乗に比例して拡大する為、業界最大のIBMファミリーシリーズ間ネットワークは、ほかのどんな技術よりも強力な参入障壁となって、IBMの覇権を維持させつづけることになるのである。


例え、A社の製品がB社の製品より価値が二倍あろうとも、B社のネットワークに繋がれているノードがA社の二倍あった場合、ほとんど勝ち目がなくなるという事だ。なぜなら、メットカーフの法則の通り、B社は、ネットワークからA社より4倍高い価値を引き出せるからだ。


コンピューター産業や、ゲーム業界が学んだように、ユーザーにとってのコンピューターの価値は、そのハードにリンクされたノードの数と質で決まる。


機種あるいはOSで利用できるアプリケーションソフトの数と質のほうが、機種あるいはOSの質よりも遥かに重要になってしまうのである。ネットワーク効果とはそういうものである。


だが、ネットワークを使って市場を支配できる企業は、そのネットワークへの参加権を支配していなければならない。


後の回で述べるが、pc98シリーズや、windows、任天堂のファミコン、SCEのプレステのようなプラットフォーム戦略を使用して成り上がった企業は全てそうである。(推論だが、中島さんのUIEも、プラットフォーム志向だと僕は思っている。あとはグ―グルも)


ネットワークへの参加権を他の企業が勝手に使えるようになると、それまで、圧倒的な競争優位を生んできた「メットカーフの法則」や「ネットワーク外部性」の恩恵にあずかれなくなるのである。他の企業が、「互換性」という魔法の力で守られたネットワークに土足で上がり始めると、競争優位を保てなくなる。


IBMのメインフレームコンピュータービジネスを破壊したのは、アムダール社によるIBM360完全互換のメインフレームコンピューターだった。


アムダール社のメインフレームは、IBM機と同じOSやアプリケーションが使えた。後に、IBM360互換のメインフレームメーカーが多数誕生し、IBMの一極支配を破壊していく。


このソフトウェア互換性、「メットカーフの法則」を巡る物語が、1970年に始まる「PC革命」、ゲーム業界でもある。


「ソフトがハードを決める」という傾向がはっきりしていくのである。これによって。


「ネットワークこそがコンピューター」というように、ハードにリンクするソフトの数、周辺機器の数こそが、圧倒的な競争優位へと繋がっていく時代となった。


そして、ネットワークの中で、もっとも多くリンクされるハード、もしくはソフトを握った企業が次世代のリーダーとなっていくのである。


このネットワーク外部性、メットカーフの法則、そしてソフトウェアの互換性の重要性を早くから見抜き、そしてそのパワーを利用したのがビルゲイツだった。


次回は、衰退していくIBMと勃興するMSのお話。






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