そんな国に一人の魔術師がやってきました。
荒廃していく国を憂いた一人の魔術師は、その国を救うために、一人の青年を一匹の怪物に作り変える呪いをかけました。
彼は、その怪物に、「自らの国と人々を守る」という使命を与え、そして「全ての人々が満足できる国になったとき、呪いは解かれるだろう」と言い残して、どこかは去りました。
怪物になった青年の力はとてもとても強く、侵略してきたあらゆる軍隊をも打ち破り、街は、繁栄を続けました。
怪物は、魔術師ヒ・モテの名をとって「ヒ・モテの怪物」と呼ばれるようになりました。
だが、怪物は、存在するために、あるものが必要だったのです。
「一年に10人、その国でもっとも弱い人間をヒ・モテの怪物の生贄に捧げねばならない」
それが、ヒ・モテの怪物に国を守ってもらう代償でした。
やがて、その国は、周辺で、最も富んだ国になりましたが、人々は、誰も満足できませんでした。ヒ・モテの怪物に守ってもらう代償として、常に国の誰かが犠牲になることが条件だったからです。人々は、「もし、自分が一番弱い人間になったらヒ・モテの怪物に食われてしまう」と内心恐れつづけていました。
そして、国の内部は、常に競争状態でした。弱い人間になれば、ヒ・モテの怪物に食われてしまうからです。だれもが、明日のために競争を強いられ、富んではいるし、平和でしたが、人々の心に平和はありませんでした。
ヒ・モテの怪物は、悲しみました。自分のせいで何人もの人が犠牲になったのに、誰も満足しないからです。
「自分がいても誰も幸せにはなれない」
彼は、自分の存在する理由がわからなくなってきていました。
そして、ある年のこと。
国の人々の中で諍いが起こりました。
片方の人々はこうの言いました。
「もう生贄なんか捧げるのはやめよう。弱者の涙と血と死の上に築かれた平和に何の意味があるんだ?」
もう片方の人々はこう言いました。
「ヒ・モテの怪物がいなくなれば、また他の国との戦争にまきこまれて、それ以上の人々が死ぬことになる。死ぬ人間の数は少ないほうがいいに決まっている。生贄をやめるわけにはいかない」
そして、その諍いは、今でも続いています。
変わったのは一つだけ。
今、ヒ・モテの怪物は「資本主義」と呼ばれるようになっています。
おわり。
参考
http://d.hatena.ne.jp/mkusunok/20060727/wpoor
http://fromdusktildawn.g.hatena.ne.jp/fromdusktildawn/20060727/1153958256