ついにゼロ金利が解除されます。で、何で、これが大ニュースと言われるのかについて、マクロ経済と生態系ピラミッドの例を使って説明してみよう!という試み。
isologueさんの所で、ライオンの視点 アリの視点というお話があって、投資を生態系に例えているのが面白かったので、便乗ともいえます。
ジョン・メイナード・ケインズ『雇用、利子、お金の一般理論』解説 (山形浩生 訳)
ついでに、山形さんのこちらの記事もお読みいただけると助かります。まず、生態系ピラミッドですが、一つの森の中の生態系ピラミッドは以下のようになっています。

植物を草食動物を食べる→草食動物を肉食動物が食べるという形での食物連鎖の図です。
このピラミッドが維持されるためには、常に植物が一番多く、次に草食動物が多く、一番少ないのは、肉食動物となるわけです。
ですが、以前、ゾウと人間のゲームというエントリで述べたことですが、このピラミッドは、常に同じ形をしていません。
たとえば、ですが、ある時期に何らかの要因で草食動物が増えすぎたとします。そうすると、草食動物の増えたことにより、植物が食い荒らされて植物の数は減り、一方、食べる草食動物が増えたんですから、肉食動物は増えます。
で、ピラミッドは、一時的にこうなります。

こうなると、一番困るのは誰か?というと草食動物です。
植物が減ったので、食べるものがなくなり、餓死する草食動物もでるでしょう。さらに、肉食動物が増えたので、食べられる草食動物も増えます。
そうなると、草食動物は上下から攻撃を食らって、ピラミッドは

こういう形になります。
飢餓と肉食動物による捕食のダブルパンチを食らって、草食動物は凄い勢いで減るわけです。
この時期が生態ピラミッドの不況期です。頭数調整ともいっていいんですが。
一段落すると、今度は、植物が増えます。草食動物が減ったので、食べられる分が少なくなったからですね。そして、肉食動物は、減ります。食べる草食動物がいないからです。
結果、ピラミッドは、

こういう形になるわけです。植物が増え、肉食動物が減る。
そして、この形になると、草食動物は、食べ物がいっぱいあるわけですから、増えます。そして、草食動物が増えると、それを食べる肉食動物が増えます。
この時期が好況期です。
そして、また、

最初のピラミッドに戻るわけです。よく出来ています。アダム・スミスの「神の見えざる手」によって、経済は最終的に均衡するとされたように、生態系システムも最終的に均衡するように出来ているわけです。
では、マクロ経済は、というと、

こうなるわけです。
ピラミッドの一番下には、需要(消費者と企業のそれ)があり、その上に、供給(企業や個人のそれ)があって、一番上に、金融(銀行、市場など)があると思われるわけです。
ケインズの有効需要の法則をピラミッド化した形なんですけど、マクロ経済を考える場合には、有効なのではないかと思って作ってみました。
生態ピラミッドと同じように、需要の大きさが、その上の供給の大きさを決めます。
需要が大きければ、供給は増えますし、需要が減ると、供給は減ります。
そして、供給が増えると、金融も活発化しますし、供給が減ると、金融も不活発になります。景気が良くなると、銀行の貸し出しが増え、悪くなると減るという形です。
で、このピラミッドで、好況期と不況期を表しますと
好況期は

となります。何らかの原因で需要と供給のバランス崩れ、前者が大きくなると(雇用吸収力の増大と人口増など)経済は、やがては好況期に突入し、全体でのパイが増えるわけです。
一方で、不況期は

となると思われます。何らかの原因で需要と供給のバランスが崩れ、後者が大きくなりすぎれば)、経済は不況期に突入し、生産調整がおきるわけです。
ここでのバランス崩壊の原因は、人口減などの需要側の問題や雇用吸収力の減退、供給過多などの供給側の問題が指摘できます。
景気が良いときとは、需要が大きいのに、それに供給がおいついていない状況です。
景気が悪いときは、需要が少ないのに、それよりも供給が多すぎる場合となるわけです。
そして、金融に関しては、供給が伸びる時には、企業などに対する貸し付けが多くなるので伸びますし、供給が減ると、貸し付けが少なくなり、伸びなくなります。
このピラミッドは、そういう形で最終的には、均衡しなくてはいけません。
生態ピラミッドでは、肉食動物の役目は、草食動物が増えすぎて、植物を食い荒らしすぎて、ピラミッドがいびつになりすぎるのを防ぐことがあります。
同様に、マクロ経済ピラミッドでは、金融の目的の一つは、供給が増えすぎて、ピラミッドの需要と供給の大きさが、いびつになりすぎるのを防ぐことがあります。
そして、この役目の大部分を担っているのが、各国家の国家銀行(お札を刷ったり、金利コントロールをしている銀行)なわけです。
金利を上げれば供給サイドである企業は資金調達が難しくなり、それ以上大きくなることが難しくなります。
一方で、金利を下げれば、供給サイドは、資金調達が容易になり、大きくなることが容易になるわけです。
生態ピラミッドにおいては、肉食動物というのは、草食動物を食べることによって、植物と草食動物の間のバランスが崩れないようにバランスを取るために存在する、一種の安全弁のようなものなわけです。
また、金融、とくに国家銀行は、金利を上げ下げしたり、市場にお札を流し込んだりすることで、需要と供給のバランスをとるのが目的なわけです。経済の安全弁なんです。
勿論、そのコントロール能力には限界があります。
肉食動物であれば、草食動物の数は、捕食を減らしたり、多くしたりすることでコントロール可能なんですが、植物の増減事態は、直接的にコントロールすることはできません。草食動物の捕食を減らしたり増やしたりする事による間接的なコントロールしかできません。
つまり、草食動物を減らしても、植物が増えない状況(大災害や干ばつ、植物に病気が蔓延している状況)では、肉食動物による生態系バランスのコントロールはできなくなるわけです。
そのため、草食動物を減らしても、植物が増えない状況がおきると、生態系ピラミッドに極めて深刻な不況が起こります。例をあげるなら、砂漠化とかですね。末期です。
また同様に、国家銀行による金利コントロール能力についても欠点があり、金利はゼロ以下には下げられません。つまり、金利を0に下げても、需要が増えない場合には、国家銀行は、景気をコントロールできないという事です。金利の上限は無限ですが、0以下にはできない。ここに金利コントロールの欠陥があります。
ここ数年の日本銀行は、不景気とデフレを克服するために後者の選択である
「ゼロ金利と金融緩和」
を続けてきました。
ところが、ここ数年、ゼロ金利にしても、景気が回復してくれない。需要自体が増えなかったんですね。経済が一種の砂漠化状態で、金利コントロールでは経済を上向かせることができなかったわけです。
この状況だった為に、需要創出の為に、打てる手が財政出動くらいしかなかったんです。
で、財政出動に関しては、なんというか、肉食動物に畑を耕させるようなもので、あまり上手くいかなかったんです。。変な例えかもしれませんが。
日本経済は、砂漠化あるいは氷河期状態だったわけです。
最初に戻りますが、日銀が、ゼロ金利を解除した理由は、単純化すると、供給と需要のバランスを取るためという事になります。
肉食動物が、捕食によって、植物と草食動物の間のバランスを適正に保つために存在するように、日銀の存在意義もここにあります。供給が増えすぎないように、金利を上げたり、供給が減ったら、金利を下げて、供給を活性化させると。
日本経済は、やっと景気が上向いてきたわけです。砂漠化が終わり、やっと緑の平原が戻ってきたという感じです。
ですが、金利が0のままだと、日銀は景気をコントロールする能力がないんです。
緑の平原が戻ってきて、草食動物が増えてきたのに、肉食動物がいない状況のようなものなんですよ。このままだと、草食動物が、平原を食い荒らして、砂漠化しちゃいます。
しかも、ゼロ金利と量的緩和によって、金余りの状況が続いているわけです。
これは草食動物、つまり供給が増えすぎる要因になるわけです。
0金利のままだと、景気が過熱しすぎる可能性が高いですし、また不況になったときに、ゼロ金利だと、日銀は金利コントロール能力を発揮できません。
砂漠化は避けなきゃいけません。
そういうわけで、将来の不景気や景気の過熱が起こるまえに、日銀は、ゼロ金利の解除によって、金利コントロール能力を再び手に入れ、金余りによって景気がバブルになりすぎないようにするという選択をしたわけです。
例えるなら、砂漠化が進行するのを避けつつ草食動物を少しづつ増やし、同時に、草食動物が減りすぎたら、肉食動物による捕食を減らせる状況に戻したわけです。
というわけで、本日は、生態系ピラミッドとマクロ経済ピラミッドの例えで、日銀のゼロ金利解除の説明しようとする試みを終わります。
ここまで読んでくださった方、つまらない仮定の話を読んで頂き、どうもありがとうございます。
タグ:経済
1.設備投資の位置づけ
企業の設備投資は結果として供給能力を増大させますが、まずは需要に位置付けられるべきです。企業も設備投資をするときは設備の買い手になります。
2.金融業の位置取り
>そして、供給が増えると、金融も活発化しますし、供給が減ると、金融も不活発になります。
家計や企業が借入れを行うのは、現在の所得・貯蓄よりも大きな消費をしようとする場合ですから、貸出しは需要の増減に左右されます。ですので、供給の増減によって貸出しが変動するとして金融を肉食動物の位置におくのは誤りです。例えば、遊休設備がある状態で需要が増えたとき、企業は借入による新規投資がなくとも供給を増大することができます。
3.金融政策の効果
>金利を上げれば供給サイドである企業は資金調達が難しくなり、それ以上大きくなることが難しくなります。
>肉食動物が、捕食によって、植物と草食動物の間のバランスを適正に保つために存在するように、日銀の存在意義もここにあります。供給が増えすぎないように、金利を上げたり、供給が減ったら、金利を下げて、供給を活性化させると。
1で指摘したとおり、設備投資は需要の一部です。また、家計においても金利の上下は消費か貯蓄かの選択に影響します。よって、金融政策が働きかけるのは、まず需要となります。
金利を上げて供給が減るなら、利上げはインフレにつながることになってしまいます。逆です。インフレを抑えるために利上げをするのであって、それは利上げが加熱した需要を冷ますことで達成されます。
4.中央銀行の位置づけ
行動が景気の影響を受ける民間銀行と、経済の操縦者である中央銀行とは、分けて考えるのがよいと思います。生態系の喩えに従うならば、中央銀行は太陽や雨とするのが妥当ではないかと。
5.ゼロ金利解除について
生態系の喩えから離れますが、インフレ率がゼロ近傍の現在、金融引き締めを行う必要性は薄いでしょう。
>そういうわけで、将来の不景気や景気の過熱が起こるまえに、日銀は、ゼロ金利の解除によって、金利コントロール能力を再び手に入れ、金余りによって景気がバブルになりすぎないようにするという選択をしたわけです。
金融政策の"糊代"論のことかと思います。これについては、次の2つを紹介します。
http://hongokucho.exblog.jp/4261074/
http://d.hatena.ne.jp/koiti_yano/20060313/p1
ご指摘ありがとうございます。
僕も専門家ではないので、間違っている点などは
ご指摘いただけると本当に助かります。