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2006年06月09日

アナリストと利益相反の話

先日のエントリの補足として、本日はアナリストと利益相反の話。それから、証券業界における投資部門とリサーチ部門の話ですよ。


うちのブログっぽい話じゃないかもしれませんが、興味のある方はどうぞ。


証券アナリストの「利益相反」問題が決着する論理と経緯(上)−「報酬の源泉」「投資銀行業務の関係」をアナリストレポートに掲載, 「アナリスト・サーティフィケーション」の登場−


証券アナリストの「利益相反」問題が決着する論理と経緯(下)−エリオット・スピッツァーNY州司法長官が切り開く新時代のルール−


まず、上記の記事のご紹介。

上記二つの記事は、証券アナリストにおける「利益相反」の問題について時系列にわたって詳細な書かれたレポートです。より正確にいうなら記事本文にある通り、「アナリストの報酬の源泉」と「投資銀行業務との関連」についてです。本日のお話は、上記のレポートと関連しているのでお読み頂いてから、うちのブログの記事をお読みいただけると助かります。

あと、記事の文字が小さいので、ブラウザで文字の設定をいじってからお読みいただくとよろしいかと思います。

まず、アナリストという業種のお仕事ですが、野村証券さんとこの辞書によれば


通常、証券アナリストのことである。

企業の財務分析、業界分析、経営者インタビューなどをもとに、株式の投資価値の分析・評価をおこなう。多くの場合、証券会社や運用会社の調査部に所属し、彼らのおこなった企業の分析・評価が、個人投資家、機関投資家、ファンドマネージャーに提供されて運用判断に活用される。債券の信用分析をおこなうクレジット・アナリストなど、各種タイプのアナリストもいる。



となっています。


ちなみに、アナリストというのは、さらに二種類あって、投資銀行で働いている人達を「セルサイド」、機関投資家の下で働いているのを「バイサイド」と呼びます。

で、前回のコラムで問題にしたのは、「セルサイド」のアナリストになります。

また、最初の記事でやり玉にあげられているのも主に「セルサイド」のアナリストです。


セルサイドのアナリストのお仕事は、「企業の財務分析、業界分析、経営者インタビューなどをもとに、株式の投資価値の分析・評価をおこなうこと」です。これは個人投資家向けのレポートを書き、投資家に買いを推奨したり、売りを推奨したりするのがお仕事と言い換えてもよいかと思います。


で、アメリカのお話になるのですが、磯崎さんのとこの引用させて頂きますが


聞くところでは、M&AコンサルティングとMACアセットマネジメント[一任の投資顧問業者]の間にはチャイニーズウォールが敷かれていて、M&Aコンサルティングがインサイダー情報を取得するとMACに売買を停止するように指示が行ってインサイダー取引を防止する仕組みが構築されていた、という話もありますので、その両者の間でインサイダー情報の流通があった、ということを検察は別途立証する必要もあるかも・・・・ということは、さておき、



村上氏の逮捕は「ホリエモンの復讐」なのか? より


村上ファンドの問題を考える時、このチャイニーズウォールが本当に存在していたのか?という点には、僕も関心があります。なんでかというと、数年前までのウォール街の投資銀行などでは、事実上、このチャイニーズウォールが存在していないも同然の状態だったからです。


チャイニーズウォールの問題から入りますが、投資銀行のアナリスト(つまりリサーチ部門)と投資部門の間にはチャイニーズウォール(情報障壁)が存在することは大前提です。

でないと利益相反の問題が持ち上がるからです。


例えば、ですが、投資銀行がある企業のIPO(株式の新規公開)を手がけていたとします。


当たり前ですが、株式の新規公開では、その価格をどれだけつり上げれるかどうかが企業にとっても、投資部門にとっても重要というか、死活事項なわけです。引受主幹事なればなおさら。

IPOで企業は資金の調達を行い、そして、投資銀行は手数料を受け取るわけですからね。IPOは莫大なお金が動きます。そして、その手数料も莫大なものになります。強気相場の続いていた当時のアメリカでは、IPOは投資銀行にとって非常に美味しいビジネスでした。


しかし、その中で、ある事態が進行していました。

それが、アナリストとつまりは、リサーチ部門と投資部門の間のチャイニーズウォール(情報障壁)の間の崩壊でした。


つまりですが、アナリスト(及びリサーチ部門)が、投資部門の取引先である企業の株を宣伝し始めたわけです。これは典型的な利益相反で、チャイニーズウォールの崩壊です。アナリストとリサーチ部門は、顧客、ここでは投資家のために働くべきなのですが、投資部門の取引先である株を薦めはじめるのは危険すぎるわけです。何故なら、有望かどうかでなく、投資部門と取引があるというだけで、そういう株を薦めてしまう可能性があるからです。

なぜ、こんなことが進行したのか?

その焦点が「アナリストの報酬の源泉」と「投資銀行業務との関連」でした。

本来、アナリストは、客観的な立場で企業を評価し、その評価を顧客に伝え、顧客が有望株と負け犬を見分ける手伝いをするのが仕事です。

ところが、市場を通じた資金調達、IPOなどがビッグビジネスになり、アナリストへの報酬が売買手数料ベースでなく、投資部門の業務にどれだけ貢献したかになっていきました。(売買手数料ベースの頃も問題があったのですが)

1980年代のトップアナリストの報酬は10万ドル程度でしたが、1990年代になると、トップアナリストの報酬は1000万ドルから1500万ドルにまで跳ね上がります。


なんでこんなに給料が上がったのかというと、こういう理由です。


結論からいうと、アナリストのレポートは、株式に対して、肯定的な評価をして、企業の市場を通じた資金調達を容易にし、資金調達のための取引を投資部門にもたらせる力があったからです。

株式公開を成功させたかったら、アナリストの好意的なレポートは必要品なんです。


アナリストが好意的なレポートを書いて、株価が上がれば、株主は喜びますし、それに釣られて株の売買が増えれば、売買手数料でも稼げる上に、経営陣はストックオプションでボロ儲け、買収されにくくなる上に、持ち株で買収資金までできるというオマケつき。



つまり、アナリストのレポートは、誇大広告兼マーケティングツールとして利用されたのが1990年代のアメリカ株式市場だったわけです。

企業にしてみれば、アナリストは株主対策兼買収対策兼資金調達マシーンだったわけです。

投資部門にしてみれば、アナリストは、便利な営業ツール。


本来、個人投資家保護の観点からいえば、こういった事態はあってはならなかったのです。アナリストが自社の投資部門の取引先に媚びへつえば、偏った判断をするようになります。その結果、本当に価値ある企業でなく、アナリストのレポートで良いと判断され企業、つまり、企業の投資部門と取引のある企業が資金を集めやすくなります。

その結果、企業に適正な評価が行われず、株価が実態を反映しなくなります。実態を反映しない株価に対しては、市場は寛容ではありません。いつか、必ず、そういった株は暴落します。その結果、割を食うのは個人投資家がほとんどなわけですが、ウォール街では、大抵の場合、「個人投資家保護」にまつわる理念は真っ先に忘れられる傾向があります。

それが、一番最初にあげた記事の中の出来事です。


メリル・リンチのアナリストは、自社の投資部門の取引先である株を投資家に熱心に推奨していた銘柄しつつ、その影でそういった銘柄を「クズ」とか「負け犬」だとか呼んでいたわけです。

そして、そういった銘柄を都合のいいレポートを書いては個人投資家を引き寄せて彼らに株を押し付けたわけです。

アナリストが株式を買いと推奨する見返りに、投資部門がその企業の株式公開、買収、合併などの仕事を引き受けていたわけです。そして、アナリストはそういう景気のいいレポートをかけばかくほど、投資部門に貢献したという理由で給料が上がる仕組みだったわけです。

利益相反をもたらした原因に「アナリストの報酬の源泉」と「投資銀行業務との関連」があげられるのはこれが原因です。


【第2幕1場】暴かれるアナリストの実態: 6月28日SEC(米証券取引委員会) 「アナリストの推奨に関し、投資家に警告する」

 6月28日、米証券取引委員会(SEC)のローラ・アンガー委員長代行(当時)がプレスリリースを発表した。「業界がアナリストの推奨の公正さと客観性を脅かす利益相反を解消するのを望んでおります。しかしSECの第一の目的は、アナリストの信用が疑問視されている行動を個人投資家に知ってもらいたい点にあります。この投資家向け警告文はアナリストの推奨に基づいて投資決定を考えている人であれば、誰でも読んでいただきたい」(http://www.sec.gov/news/headlines/analystsalert.htm)とする「アナリストの推奨に関し、投資家に警告する」と題するレポートが発表されたのだ。以前、本欄でも紹介した(参照「IRの話題 No.82 世界の証券市場を揺るがす『アナリストの'利益相反'問題』 01年7月19日」)。初めての読者のためにポイントを再録しよう。


最初の記事からの引用になりますが、SECは、以前からアナリストと企業との癒着の改善を求めており、それがこういった形であらわれたわけです。

アナリストのレポートに信憑性をもたすために、企業やCFOは、売上や重要情報をリークし、その情報に基づいて、アナリストのレポートはかかれるようになっていました。

当然、前もって、利益予想、企業の収益情報を知らされていれば、アナリストは決算前にそれに近い数字を出せばいいわけで。

そういうことが繰り返されると、アナリストの情報は貴重なものとして扱われるようになります。「予想が良く当たる」といわれて。実際には、予想でもなんでもなく、リークされた情報だったわけなんですが。

その結果、トップアナリストは、非常に高い評価を受けるようになり、彼らの言葉は力をもつようになっていきます。

結果、彼、あるいは彼女の言葉一つで株価が上がるようになるわけです。

投資家に知らされなかったのは一つだけ。そのアナリストが所属している投資銀行の取引先=アナリストの有望株という事実だけでした。本当に価値があるかどうかでなく、投資銀行の取引先の株価を上げる、あるいは維持するのがレポートの目的となっていったわけです。しばしば、「市場はアナリストが投資銀行で働いている事を折込済みだ」とも言われましたが、アナリストの発する「中立」という言葉が事実上「売り推奨」を意味するという事について知っている個人投資家は少数だったとも言われます。


@アナリストの仕事と影響力 「リサーチ・アナリストは公けに株式売買されている企業調査を行い、株式売買について推奨を行っています。アナリストの多くは特定の産業や経済分野に特化し、今日の市場にあって大きな影響があります。とりわけその推奨がテレビに登場し、電子媒体やプリント・メディアで広範囲に喧伝されると、アナリストの推奨やレポートは企業の株価に影響することがあります。企業の展望やファンダメンタルに最近なんら変化がない時ですら、人気の高いアナリストによる企業名の単なる一言で、株価の上昇や下落を一時的に引き起こしかねません

A株式銘柄推奨の実態 「アナリストは推奨の表現に、買い、強い買い、短期的・長期的買い増し、短期的・長期的なオーバー・パーフォームやアンダー・パーフォーム、中立的、ホールドといった、いろいろな用語を使います。しかし、彼らが直接投資家に対し、自分が担当する企業の株式を売却するよう求めることはほとんどありません。ある調査によると、2000年のブローカー・アナリストの「売り」「強い売り」推奨は1%に届いていません。その結果、多くの業界専門家は「ホールド」推奨を「売り」を意味していると理解しています

B潜在的な利益相反 「今日の市場ではアナリストが重要な情報ソースになっていますが、投資家はアナリストが直面しかねない潜在的な利益相反をよく理解しておくべきでしょう。例えばアナリストの勤務先が、担当企業の証券を引き受けたり、保有していたりすることもあります。アナリスト自身も担当企業の株式を、例えば、自分や同僚が参加している従業員持ち株制度などを通じて直接、間接に保有している場合もあります



記事からの引用になりますが、SECの警告は、当時のアナリストの問題点を的確に述べています。(赤字は僕です。)


で、そういうのが続いた結果、本当に有望な企業でなく、アナリストが有望と言っただけの株まで上がり始めたわけです。ネットバブルの発生です。

んで、全てのバブルがそうであるように、ネットバブルがはじけたわけですが、2001年、ナスダックが59パーセント下落してもアナリストの65%が買い推奨だったわけで、2000年以降のアナリストバッシングの原因と一つとなり、上記の記事にあるような流れ、アナリストと企業の癒着を断ち切るという流れに結びついたわけです。


「投資銀行業務との関連」については、アナリストが客観的な判断基準によらず、企業の思惑にそって利益予想を行い、客観的判断をせず、個人投資家の利益でなく、投資銀行ビジネスを優先している実態が問題にされました。

アナリストの財布は、投資銀行ビジネスが伸びれば伸びるほど膨れる状態だったわけですから、それも当然の成り行きだったのですが。

一番よい例はドットコムバブルの戦犯としてやり玉にあげられたメアリー・ミーカーでしょう。

彼女については最近、再登場して幾つかのブログで取り上げられました。

「ネットの女王」と呼ばれたモルガン・スタンレーのアナリストであり、イーベイやアマゾン、ヤフーのレポートを書き、IPOを成功に導いた人でもあります。


彼女の功績は確かに素晴らしいものがありますし、レポートも強気なものが多いです。

ただ、全米証券業界の規則では、しかるべき根拠がない場合、アナリストはその企業の株を推奨できないのですが、当時のネット企業は、これといって利益を計上していませんでした。


そこで彼女が持ち出したのが、「継続価値割引モデル」であり、それは五年後の利益や成長率を計算するものでした。これを根拠として、利益がほとんどでておらず、その望みもない企業にまで一般には高い評価といわれる評価を、つまり買い推奨を与えたわけです。


彼女がネットバブルの戦犯扱いされているのは、そういう理由からです。

大組織とバブル

でもそのあと、Morgan Stanleyの組織の階段を登りつめるとともにネット企業の可能性を煽り続けていくMary Meekerを見ていて、ブームが頂点に向かって行くときに大組織から離れていてよかったなぁ、と僕は安堵の気持ちを持った。

組織で重要なポジションに居て展開する論理と、自分が心から信ずることができる意見というのは、彼女の場合だってどこかのタイミングで齟齬をきたしていたに違いないと思う。けれどフル回転して儲かっている組織を止めることはもうできなかったのだろう。自分の誤りに誰よりも先に気づいても、大組織に居てはそれを是正することは著しく困難だ。まぁ、それが彼女の莫大な年収の代償だったわけであるけれど。




梅田さんのバブル戦犯と言われたMary Meekerの再登場より


彼女が、どこで道を踏み外したのか。それは、あの当時の「アナリストの報酬の源泉」と「投資銀行業務との関連」を考えれば当然かもしれません。梅田さんがいうように、モルガン・スタンレーのような大組織に所属する以上、投資部門のビッグビジネスを台無しにするわけにはいきません。組織に逆らって信念を貫ける人もいるのですが、彼女はそうではなかったようです。それとも、本気であの評価を信じていたのか。


アナリストが買いを推奨する見返りに、投資銀行は企業の株式公開を手がけ、合併や買収のお膳立てをする。

投資銀行業務が膨れれば、アナリストの財布も膨らむ。

買いを推奨された企業は、株価が上がるので合併・買収をしやすくなる。株式の公開も成功しやすい。ストックオプションで経営者の財布は膨らむ。株主にも喜んでもらえる。

いい事づくめです。ババを引かされるのが個人投資家である点をのぞけば。

この図式が変わらない限りは、何も変わらなかったでしょう。


ミーカーが叩かれたのは、上記のような疑わしい計算方法で、いくつかの企業のIPOを手がけた点にあります。


やり玉にあげられたのが、プライスライン・ドット・コムの件でした。

モルガンスタンレーは、この企業のIPOで莫大な利益を上げ、その結果、彼女の年収も桁違いになったわけですが、彼女のレポートは、プライスラインの株価が最高値をつけた時も買い推奨、株価が一桁になっても買い推奨でした。


他にも有名な例はあるわけですが、とにかく、利益をあげていない会社の株価をアナリストのレポートを使ってつり上げたり、株価を維持したりする手法が横行していたわけです。

その結果が、ドットコムバブルに繋がったとして、メアリー・ミーカーは戦犯扱いされるようになったわけです。


最近のメアリー・ミーカーの再登場にしても、web2.0という言葉によって、もう一度、あの熱狂を振るいおこし、それによって、新たな引受業務を得ようとする投資銀行の側の思惑と、IPOを成功させようとする企業の側のアレが透けてみえてイヤーンな感じなのですが…


メアリー・ミーカー、彼女は、景気のいいレポートを連発して、ITの期待値をあげ、モルガン・スタンレーは投資業務でがっぽり儲け、彼女もしっかり儲けたたわけですが(ネットバブルの崩壊後も買い推奨続けたせいで訴訟おこされたりしちゃいましたが)、まぁ、どっかの日本企業も似たような事してるねぇとか思うかもしれません。


日本も似たような道を辿っていると見るのがいいかもしれません。ミーカーがもう一度同じことをしようとしているんじゃねーかと怪しむ向きがあるのも当然かもしれません。とにかく、あの買い推奨は頂けなかった。モルスタ内部にいたんじゃ仕方なかったのかもしれませんが。


とにかく、そういうカラクリが、かつてはありましたよ、というお話でした。

日本の証券業界のお話については、又、暇なときにでもしてみようかと思います。





タグ:投資 経済
posted by pal at 21:25 | Comment(1) | TrackBack(0) | コラム このエントリーを含むはてなブックマーク | 編集
この記事へのコメント
大変面白く、参考になりました。
日本編を期待します。
Posted by ねこ at 2006年06月11日 01:19
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