で、本題になるのだけれど、今回の村上ファンドの立件については、インサイダー容疑で検察は引っ張る様子らしい上に、村上さん自身がそれを認めてしまった。つまり、インサイダーにひっかかる事をしてしまったというのを認めている。
この辺りは
村上氏、インサイダー取引認める(どうなる、投資実務の今後?)
や 村上氏が残すもの
が詳しい。磯崎さんや47thさんのエントリをお読みいただければ、大体の流れはおわかりいただけるかと思う。
で、なんだけど、僕もお二人の意見とは、ほとんど意見は同じで、こいつで有罪にするのは、結構難しいとは思う。というか、これが有罪になってしまうと色々と面倒なことになる。
磯崎さんの所から引用させていただくけれども
前述のとおり、「大量の資金を動かせる2つの投資家」がいて、一方の投資家が別の投資家に「大量に株を取得しようと考えてるんですけど」と告げるだけでもう片方が証券取引法167条[公開買付者等関係者の禁止行為]違反になるので株式の取得を中止せざるを得ないことを意味するキツい判例が出たとしたら、自分だけが有利に株を買いたいので相手に株を買うのを止めさせようと思う投資家の「言ったもん勝ち」になっちゃうので。
こんな事になったら、透明性の高い情報開示が求められる市場において逆に情報流通が阻害されてしまう。
で、ここでアメリカの話になるんだけど、2000年頃、アメリカでは証券業界で大きな出来事があった。それは「公平情報開示規則」、レギュレーションFDを巡るSECと証券業界との綱引きだった。
ちょっと難しい話になるけど、我慢してお読みいただければと思う。
「公平情報開示規則」の目的は、それまでアメリカの株式市場で盛んに行われていた「選択的情報の開示」を規制するためのものだった。
ウォール街では、公平で開かれた市場という歌い文句の下で、極めてアンフェアなゲームのルールが存在していた。
このあたりは、最近、村上さん関連でエントリを書いていて、ウォール街を経験しているぐっちーさんなら、ご存知だろうし、多分、そのうち書いてくれると思うんだけど、1990年代のアメリカでは企業がアナリストに利益予想の数字をリークするケースが後を絶たなかった。
その理由はこうだ。
企業は懇意のアナリストに頼んで、利益予想を都合のいい数字にしてもらう。そうすることで、企業は、確実に利益目標を達成できる。
なぜ、そうすることを企業が好むかというと、アナリストの利益予想を下回れば、市場における株価が低下するからだ。それは企業にとって好ましくない。だから、ある程度、情報をコントロールする意味でアナリストと懇意になる企業とCFOは後を絶たなかった。
そして、アナリストは、企業から重要な収益情報を得ては、それを社内の営業部門と運用部門に告げる。
営業部門は、アナリストからもたらされた情報を下にお奨めの株を大事な顧客に伝える。リークされた情報を下にしているので、顧客は儲かるし、営業部門も顧客獲得で優位にたてる。
運用部門は、まんま、リークされた情報を下に株を買う。発表前の収益情報を知っていれば、市場で優位にたてる。
アナリストと企業は、二人三脚でやっていたわけである。そして割を食うのはいつも個人投資家という具合だった。
こういった事態が常態化していたので、四半期決算の前に、どこかの企業の株価が突然上がり出すなんて事態がしばしば発生した。
なんの前触れもなく、ある企業の株価が下落したり、上昇したりする。そんな事が四半期決算の発表前に繰り返された。
そして、その結果、いつも食い物にされたのは、個人投資家だった。ウォール街は張り巡らされた情報ネットワークの下で繁栄し、個人投資家はいつも最後に情報を知らされては食い物にされていた。
こういった情報流通は「選択的情報の開示」と呼ばれる。
SECは、これをなんとかしようと、当初、インサイダー取引疑惑を持ち出そうとしたが、断念した。
理由は、連邦最高裁が1983年のダークス裁判で、インサイダー取引で告訴するためには、「内部の情報提供者が信任義務に違反して個人的利益を得ている」ことを立証せねばならにとされたからだ。
この個人的利益というのが曲者だった。
利益を得ているのが「個人」でなく、「企業」であればどうなるのか?
この判決は、そのまま、ある種のゴーサインとなった。
つまり、得をするのが、個人でなく、企業であるならばインサイダーとは呼べない。アナリストは企業から多くの情報を得て、それを市場に流すのは合法とされることになる。
アナリストが、与えられた情報に基づいて株の売買を行うのは(それが個人的利益や名声に直結しない限り)違法ではないと判断されたわけである。
また、インサイダーで強制捜査をすることはアメリカでは難しかった。アメリカのインサイダー取引への処罰は日本とは比べ物にならないほど厳しい。下手につつけば、情報流通が滞り、それは市場全体でのマイナスとなりかねかなった。
そうした結果、SECは、「選択的情報の開示」を止めさせるために、インサイダーでなく、「公平情報開示規則」という形を取った。
つまりだが、企業間の「選択的な情報開示」をインサイダー容疑で立件すると市場全体での情報流通を損なってしまう。そのくらい、これは危険だった。市場にとってマイナスなのである。
おそらく、村上さんも、それを知っていて、ある程度、今回の容疑を認めたと思われる。
今回の容疑で村上さんをひっぱるとなると、市場に悪影響を及ぼす。選択的情報の開示がインサイダー取引に該当するとなると、企業は全てのアナリストやメディア人との私的、あるいは公的な付き合いを自粛してしまうかもしれない。磯崎さんの指摘するように投資家同士での「言ったもん勝ち」的な競争にもなりかねない。
というわけで、村上さんは、インサイダーを認めたが、それは「選択的情報開示」に違反しましたというレベルで、これを訴訟のレベルで争うというのは経済にとってよろしくないので、この範囲で争う限りは、最悪でも執行猶予程度と踏んだのだろう。
で、アメリカに戻るけど、先にも述べた通り、こういった「選択的情報の開示」をとめるために、SECは違う手法をとった。
つまりだが、最初から全ての重要情報を開示させてしまうのである。
これが「公平情報開示規則」、レギュレーションFDが作られた理由だった。
「選択的情報の開示」によって、アナリストとウォール街が利益を上げ、個人投資家が食い物にされている状況を打破するため、「選択的情報の開示」を禁止するのでなく、「全ての重要情報はあらかじめ全て開示せよ」という方向にもっていったというわけである。
選択的情報開示をインサイダーで立件するのは市場にとってはマイナスなので、こういった方向で調整したわけである。
今回、検察がアメリカのSECですら、やろうとしなかった事、つまり選択的情報開示=インサイダーという流れで検察が立件しようとすれば、恐らく、それは検察にとっては面白くない方向で動くのではないかと思う。
それはちょっと
隊長も指摘しているけど、
当 該 期 間 に 話 を 聞 い て い て 株 式 を 売 買 し た 人 は 全 滅
それはダメでしょ。
今回のケースで市場に必要だと判断されるべきは、「公平な情報開示」であり、「選択的情報開示」=インサイダー取引じゃないと思うわけですよ。
それはやりすぎで、逆に市場にとってマイナス以外の何者でもないでしょ、という話。


FDの話はいつか書こうと思いつつ棚上げになっていたので、今度関連する記事の時にはTBをつけさせて下さい。
ただ、今回の件は買収候補者に関する情報管理の問題なので、Rule-14(e)3の方なのかなと思っていて、何れもう少し真面目に調べてみようと思っているところです。
何れにせよ、村上氏とか陰謀論的なものではなく、単に「法律違反」=「悪」という形で、市場におけるバランスの難しさを全く理解していないように見える執行サイドのセンスの欠如が一番気になっています。
コメントありがとうございます。
ブログのほう、いつも楽しみに拝見させて頂いております。
色々書きましたが、法律のほうは、てんで素人なので間違いなどありましたら、ご指摘いただけるとありがたいです。