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2005年12月24日

スターウォーズ「シスの復讐」と物語考

先日、やっと「シスの復讐」みましたよ。

第一部と第二部が最高につまんなかったので、
期待してなかったんですが、第三部の中盤からは
良かったっす。

以下、ネタバレありなので、
観てない人は読まないで下さい。
読みたい方のみ、続きを読むからどうぞ。


んでは、本題に。

スターウォーズはよく言われる事ですが、
ファンタジーをスペースオペラの世界に
持ってきた作品です。

スターウォーズ以前にもSFは沢山ありましたが
何故、スターウォーズの特異性は、それまでのSFに
おとぎ話の要素を持ち込んだ事で差別化された作品と言えます。

いわば、SFとファンタジーのハイブリット。


かのSFの大家アーサー・クラークは
「よく出来たSFはファンタジーである」
なんて言いましたが、露骨にそれをSFの世界に持ち込んだのが
スターウォーズなんですね。


で、旧スターウォーズ三部作のほうを
僕が見たのは中学生の頃なんですけど、
あの頃は、本当に面白い作品だなぁと
思ったものです。


旧スターウォーズ、つまりルークが主人公の物語の方に
ついて簡単に述べますと、あれは「親殺しと子殺し」の
物語です。

つまりですけど、自分の親を殺して母親を自分の妻として
古典的物語、オイディプス王の流れを汲む作品です。

オイディプス王の簡単なストーリーを述べますと

オイディプスがテーバイの国を襲う悪疫の原因を
神託に問うと先王ラーイオス殺害の穢れの故だとでます。
オイディプースは犯人探索に乗り出しますが
明らかになるのは父親を殺し
実の母と結婚しているという事実。



そんな物語です。


ファンタジーでは、予言、近親者殺しが
よくあるわけですがオイディプス王や、
イリアスの頃からの由緒正しき2000年以上に渡る
伝統なわけでございます。

他にも幾つかありますが、変装して隠された正体をもつ
謎の人物とか、半神的存在だとか。

まぁ、こういう要素をふんだんに取り入れたのが
スターウォーズです。

まず、なんで予言が必要なのかといいますと、
これは、読者に「物語がどういう展開をするのか」
というのをあらかじめ教えておく必要があるからです。

そんな事したら、面白くないじゃんとか思う方も
おられるでしょうが、それが少し違います。

なんでかというと、複雑な物語になり、
人物関係が複雑になればなるほど
ある程度、物語がどういう方向に向かうのか、
前もって明示しておかないと、読者がついてこないんです。

だから、予言が必要なんです。


それともう一つは、伏線としての効果ですね。
イリアスでは、主人公の不死身の英雄アキレスが
「トロイ戦争に従軍すれば死ぬ」という予言の下で
話が進みます。

アキレスは半不死ですから、こういう伏線をはって置かないと
物語が盛り上がりません。

だって、不死身の英雄なんだもの。

ただアキレスがバッタバッタと人を
なぎ倒していくだけじゃ、物語にならんし
読者が飽きちゃうんですよ。

読者が闘いのシーンで、アキレスが戦いに加わった瞬間に

「アキレスは不死身だから、負けるわけない。
どうせアキレスが勝つに決まっている。つまんね」

とか思われたら、どうしようもないですからね。
八百長ゲームがつまんないように、物語には
緊張感が必要なんです。

だから、予言で「アキレスの死」を明示する必要があった。
予言というのは、ファンタジーにおいて、非常に重要なんです。
特に、主人公が内部に超自然的な力(超能力であったり、神の血)
を宿している場合は特にね。

で、近親者殺しのほうも、又同じように理由があって
用いられています。

何故、近親者殺しなのかというと、
そこに「葛藤」が生まれるからです。

自分の子供を殺さなきゃいけなくなった親の話や
自分の親を殺さなきゃいけない子供の話は
非常にファンタジーにおいてポピュラーなわけですけど、
こういうのって、主人公を苦悩させるのに
最高の題材なんです。

物語を面白く書くためには、
物語を読んだ読者を緊張状態、つまりはスリリングな気持に
させることが必要なんですけど、上記のような状況に
主人公を追い込む事ほど、読者をスリリングな気持にさせる
題材はそうないんですね。

「子殺し」や「親殺し」というのは
人間の本能に危機感を与える題材で、
そこには常に精神的苦悩が付きまといます。

物語では、いかに主人公を肉体的苦悩、
あるいは精神的苦悩の状態に追い込むかが重要です。
ここが肝です。

村上春樹がいった通り、物語は全て

「人間が穴に落ちる/そこから這い上がる、あるいは穴のそこで死ぬ」

を基本とします。これ以外はストーリーになりません。
ですから、物語には、基本的に二つのギミックが必要になります。

一つは、主人公を穴に落すギミック。
もう一つは、主人公を穴から救い出すギミック。

子殺し、親殺しは、前者のギミックであり、
主人公を精神的苦悩に追いやるためのテクニックといえます。

後者は、主人公が苦悩や危険に追い込まれ、にっちもさっちも
いかなくなった状態から抜け出すために必要とされます。
無論、穴のそこで死なせるなら、コレは必要でなくなります。

スターウォーズでは、主人公が絶対絶命の危機におちいった時
穴から脱出させる為に、「フォース」という力が
主人公の「お守り」についているわけです。


で、ここまでの話を土台にして、スターウォーズという物語を
簡単に解析するとこうなります。

で、僕が、なんで旧三部作を面白いと思い、
新三部作をつまんないと思うのかを、自己分析的に
述べますとですね。


まず、旧三部作というのは、
主人公が穴のどん底スタートなわけです。

まず、帝国が銀河を支配し、
主人公のルークは、ただの少年から始まります。

この状態だと、もうピンチの連続なんですよ。
主人公が弱く、敵が強いほど、読者を
スリリングな気分にさせやすいんです。

「強さのインフレ」が嫌われるのは
主人公が強くなればなるほど、穴に落すギミックを
作る手段が限られてきちゃうからなんです。


しかも、ジェダイの生き残りは
ルーク、オビワン、ヨーダだけなんですから、
どうしたって、主人公側は不利です。
そうなると、凄い物語を盛り上げやすい。

「やばい、ピンチだ」

これが、物語の基本なわけで、この状況を作れないと
盛り上げれないんです。ジェットコースターと同じです。
「やばい、怖い、ピンチ、逃げたい」が基本です。


その他にも、物語の初期において、
読者に隠された情報、つまり
ルークはダース・ベイダーの子供であることや
レイア姫とは姉妹であること。

第一作で、もろに近親相姦寸前までいきますが
これもオイディプス王の流れです。

こうした伏線をはりつつ、主人公を肉体的危機だけでなく
精神的な苦悩にも陥らせているのがスターウォーズの
醍醐味なんです。

名作というのは、主人公を肉体的危機と精神的危機、
あるいは経済的危機のどれか二つ、できれば三つを
抑えています。

スターウォーズ旧三部作は、ここを実にきっちり抑えていた。
ここが素晴らしい。物語を盛り上げる要素に欠かない作品でした。

さらに、ダース・ベイダーとルークという二人の主人公。
この二項対立が華を添えます。

「善は悪の唯一の存在理由」

これが、近代的価値観であり、全てが相対化された近代では
善のキャラを出すならば、悪のキャラがいないと始まりません。

でないと、キャラがたたない。
対立する軸のライバルがいて始めて主人公が際立つんです。


このブログでよく扱う「風と共に去りぬ」は
この点で、史上稀にみる対立軸を打ち出しました。


スカーレット・オハラ
(炎のような気質。美人。エゴイストにして功利主義者。
夫を利用して生き延びる女性)

メラニー・ハミルトン
(流れる小川のような穏やかな気質。不美人。
淑女にして愛国者。夫に尽くす女性)


という二つのヒロインの対立軸。
恐ろしいほどに対立点が際立っており、それゆえに
両方のヒロインが恐ろしく光ります。

また、ヒーローでも

レット・バトラー
(南部同盟の裏切り者。変節漢。野蛮にして功利主義者。
非紳士。女たらし)

アシュレ・ウィルクス
(南部同盟に忠実な紳士。洗練され、貴族的で本を愛し
他人を慈しむ紳士。)

という形で明確な対立軸が打ち出されています。

聖女⇔娼婦
野蛮⇔文明

という二項対立が両ヒロイン、両ヒーローの中で
明確に対立するために、物凄くキャラがたつんですね。
この四人は。


スターウォーズに戻りますが、
僕が、新三部作に不満を覚えるのは
上記のような点が少なかったせいだと思われます。


新三部作は、アナキンの転落物語なわけですが、
アナキンの明確な対立軸がない。

オビワンがそうなんでしょうけど、あまりに弱い。
というか、アナキンと途中までキャラかぶってる所がある。
もっと激しく対立するキャラにしないとダメでしょ。。。。

ダース・ベイダー(悪の騎士)VSルーク(正義の騎士)

みたいな、圧倒的なスケールがない。
これじゃ、キャラがたちません。


さらに、新作では共和国が強すぎて、つまりは、
主人公側が、有利すぎて盛り上げにくすぎる。

ジェダイの最盛期だから、やたらと
主人公サイドが強いし。主人公を穴に落すギミックが
上手く作動してないなってのが印象でした。

サスペンス的要素をいれて
盛り上げたかったんでしょうけど
サスペンスってのは、登場人物の間を主人公がかぎまわり
やがては、犯人をおいつめるっていう「狩り」のスリリングさが
売りなわけで。

アナキンがやがては、ダークサイドに落ちるんですから
上手くいきっこないし。皇帝側に寝返るってわかってるんでしぃ。


ただ、やはり、アナキンがダークサイドに落ちてからは面白い。
明快な対立軸、つまり

オビワンVSアナキン
ジェダイVSシス

っていう対立軸が明確化されるんですよね。
しかも、オビワンが「弟子殺し」という精神的苦悩にも
陥る。ここが非常によい。

身体的危機と精神的苦悩は、車のエンジンと車輪みたいな
もので、この二つが合わさると凄い効果が高いんです。

あと、シスの予言もね。
ジェダイの予言じゃなく、シスの予言をもっと速めに
だすべきだったと思います。

それによって二つの予言の対立という
形で、伏線を貼れるし。

まぁ、そーゆーわけで、新三部作は
ラストのアナキンがダークサイドに落ちるまでは
消化不良気味でした。

オビワンとアナキンの対立や、アナキンの苦悩が
ちょっと弱すぎたと感じております。

もっと徹底的に主人公苛めというか
アナキン苛めすべきだったなぁと。


posted by pal at 20:20 | Comment(2) | TrackBack(1) | コラム このエントリーを含むはてなブックマーク | 編集
この記事へのコメント
palさん、こんにちは、

なるほど、なるほど。

かようにして、ナウシカ vs クシャナという図式も成立するわけですな。

しかも、ちゃんと予言も幾重にもされているし。

最近、あらためてナウシカの物語のすごさを感じています。
Posted by ひでき at 2005年12月25日 11:28
>>ひできさん
宮崎作品はとても基本を抑えて作られているので
物語としては、とても参考になります。

そのうち、宮崎作品の構造分析も
ブログでやろうかと思っております。
Posted by pal@管理人 at 2005年12月25日 19:06
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