本日の話題は妻殺しと嫉妬である。
最初に妻殺しに走ったアメリカ人の男性の話を取り上げる。
彼は、妻と不仲だった。毎日、浮気のことで争っていた。
彼には娘がいた。
ある日、妻とのいい争いの最中、妻が彼に向かってこう言った。
「あんたって間抜けね。この娘があなたの娘じゃなくて
別の男の子供だって気付かないんだから」
この言葉を聞き、彼は逆上し、ライフルで妻を撃ち殺した。
このケースは特異だろうか?
チンパンジーやゴリラ、ライオンのオスであれば、
おそらくは、ライフルで妻を撃ち殺すことはしないだろう。
逆に、娘を撃ち殺した可能性が高い。
チンパンジーやゴリラ、ライオンなどの子殺しは
自分の子供でない場合だ。そして、子供を
殺した後で、メスと交尾し、自分の子供を産ませる。
何故、人間の男は妻を殺すのか?
男女間のもつれで、男が男を殺すケースや
夫が妻を殺したというケースは地球上の
どの文化圏でもみられる。
男女間のもつれによる殺人は、殺人における
主要な動機の一つにあげられる。
一つの文化圏に特異なケースではないため、
文化的要因というよりも、どちらかというと
生物的な要因ではないかと思われる。
だが、妻殺しというのは、生物的な要因で
説明するのが難しい。人の女性は産める子供の数が
一生の間に20人前後と決まっている。
(複数妊娠を繰り返せば別だが)
男性が半分になっても、一夫多妻制をとれば
次の世代では、人口を元に戻せるが
女性が半分になった場合、次の世代での
人口の再生産が上手く行かないからだ。
しかしながら何故、男性による妻殺しが
ここまでの頻度で、どの文化圏でも起こるのだろうか?
この問題を考える時、答えを与えてくれそうなのは
嫉妬という心理である。
嫉妬という心理には性差が存在する。
男性は、女性に対して激しく嫉妬するのは
その女性が他の男性と性交した場合である。
女性が他の男性と精神的な絆を結んでも
肉体的な関係を結んだ時ほど嫉妬しない。
一方で、女性が男性に対して激しく嫉妬するのは
パートナーが自分以外の女性と
深い精神的な絆を結ぶ場合である。
そのため、男性が男の親友と長い時間を
過ごしていると、稀に女性の嫉妬が誘発される事も
あるようだ。
又、男性が他の女性と肉体関係を結んでも
それが一夜限りの関係である限りは、
男性ほどには嫉妬しない。
いや、女性じゃないから、わからんのだが、
心理学者達の研究だとそういうものらしい。
男性が、女性が他の男性と寝たことに最大のショックと嫉妬を
感じる原因は、簡単に説明できる。
男性は、妊娠しないし、生理もない。
はてB経由で女性の生理がこない時の恐怖について
述べていた方がいたが、男性はこれは
永遠にわからない。なぜなら、子宮がないからだ。
理解することはできるが、
その恐怖がどのようなものなのかを
知る事は永遠にできない。
一方で、男性にしかわからない恐怖がある。
それは、自分の子供が自分の子供かどうか知ることが
できないという恐怖である。子孫を残す事は
生物の史上命題であり、その点で、自分の子供が
自分の子供であるかわからないというオスのジレンマが
嫉妬なのであろう。
最近はDNA鑑定で知る事ができるが、
歴史上のほとんど全てにおいて、
この感情は男性を支配してきた。
女性は妊娠と出産、生理というコストを生物的に
課せられているが、一方で、一つだけ利点がある。
自分の子供が自分の子供であるという絶対的な
確信をもてるのだ。
そのため、女性の嫉妬という感情は
別の面に強く発現するようになったのだろう。
つまり、女性にとっての恐怖は、
子供が自分の子供かどうかという点に向かわない。
そこには絶対的な確信がもてるからだ。
子孫を残す上で、自分の子供かどうか
確実に知ることができる事はかなりの強みである。
女性にとっての恐怖は、妊娠後の子供の世話と安全に向けられる。
まだ、樹上で暮らしていた頃の我々の先祖であれば、
おそらく、他のオスによる子殺しが頻繁に起こっていたはずだ。
また、厳しい自然との闘いの中で子育てをしなければ
ならなかったメスは、子供を安全に育て上げる為に
オスが、労働を分担し、資源を共有し、共に敵に立ち向かい、
共に子供を養育してれるかどうかは、非常に重要な問題であった
はずである。
こういったリスクから子供と自分を守る為には
献身的で多くの資源を運んできてくれ、子供を
他のオスによる子殺しや天敵から守ってくれる強いオスを
何よりメスは求めたはずである。
そして、今なお、強く資源を多くもち、
献身的な男性というのは女性に非常に人気がある。
いわゆる、「麗しの王子様」だ。
強く、地位があり金持ちで、献身的で、意中の乙女を助ける為には
ドラゴンと戦う事も辞さないという精神的錯乱者である。
(*女性に人気がある故に、献身・愛情・優しさや資源の多さをアピールして女性を騙してセックスするのも男の常套手段であるので、女性は注意されたし。この心理は往々にして男に利用される。女性は直観力というか、コミュニケーションに関して男性より優れている。女の子供というのは男の子供より早く話始めるし、ちょっとした仕草から他人の感情を読むのが上手い。おそらく、こういった男性側の嘘を見抜く事が、交配市場において重要だったためだろう。)
このことが女性の嫉妬に関して強い影響を与えていると
思われる。
最大の恐怖、リスクとは、
他のメスの所にオスが行ってしまうことである。
オスがサービスを提供してくれないと
子育てにおいて、メスは大変なリスクを抱え込む。
他のオスによる子殺しが行われる可能性が
あっただろうし、男性が資源を運んで来てくれないと
子供に十分な資源を与えることも
できなくなる。
そのため、女性というのは男性が他の女性と
精神的な結びつきを結ぶことを非常に嫌う心理メカニズムを
もっているのだろう。
そして、このメカニズムが変な方向で働くと
男性の親友にまで嫉妬のメカニズムが働くといえる。
嫉妬のメカニズムはこれで大体説明できるが
問題は、妻殺しである。
何故、人間のオスはメスを殺すようになったのか?
しかも嫉妬で。
嫉妬のメカニズムが働く限りは、
男性が殺すのは、自分の子供でない子のはずだ。
少なくとも、他の類人猿やライオン、その他の生物の
子殺しの大部分はそうだ。
男性の女性への暴力は、
自分以外のオスと性交した場合には
高いコストを払うことになるぞ、という形で説明できる。
そういう形で、女性が
自分以外の子供を産めなくするように
仕向けるという形で説明できる。
だが、妻殺しは説明できない。
殺してしまっては子供を産ませる事ができない。
もし、ある程度の説明をつけるとしたら、こうなる。
つまり、男性が特定のメスと関係していると
他のメスが興味を示してくれなくなるという点だ。
メスは、オスによる自分へのサービスを独占したがる。
これは当然で、オスのサービスが自分一人に対して
払われている限りは、その全てを手にいれることが
できるだろうが、オスが二つのメスにサービスを提供していると
自分の子供へのサービスの量が半分になってしまう。
それでは自分の子供を上手く育てられなくなる可能性が高い。
そういう心理的メカニズムは、こういう形で
説明できるし、理解はできる。
イエスズメでは、時折、第二夫人が
第一夫人の子供を皆殺しにして
自分の雛へのオスのサービスを
独占することがあるケースを前回のケースで取り上げた。
そのため、男性にとっては、いらなくなったメスというのは
他のメスと関係する上で、重すぎるコストにしかならない。
だから、殺してしまうのが手っ取りはやい。
と、無理やり説明をつけてみたものの、
殺人は重罪だし、自分に降りかかるコストを考えれば
妻殺しには、今の社会では何の意味もない。
社会規範、モラルなどが存在しなければ、
成り立つ説明であって、人間に適用してもあまり意味がない。
最も、逆上することで、モラルやリスクへのストッパーが
外れて、生物としての心理的メカニズムに突き動かされて
しまうという風に説明も可能だが、こじつけになる。
もっとも、この連載コラムは全部こじつけなんだが。
人間のオスの妻殺しは、極めて説明の難しいテーマである。
この点においては、自然が文化に屈したといえるのかもしれない。
それと、女性は、とにかく浮気がばれた場合の
男性の暴力性を甘くみないほうがいい。
これは、おそらく生物的な心理メカニズムであり
おとなしそう、扱いやすそうと思っていた男性ですら
浮気を知ると一気に攻撃的になる可能性がある。
実際に、妻や恋人が他の男と性交していたと知った後の
男性の行動は、おそろしく冷酷で暴力的である。
そして、何よりも人間のオスは、妻が浮気をすると
うまく説明ができなかったが、「子殺し」でなく
「妻殺し」をする生物なのである。
でも、人間の行動は遺伝子じゃなくミームで考えるべきだと思います。
その理論も面白いっすね〜。
>>踊る新聞屋さん
有難う御座います。(ぺこり)
恐縮です。
昔、芝居にはまっていたころ、今は忘れ去られているストリンドベリという作家の「父」というのをやりました。妻が夫への怒りのあまり、最愛の娘が夫の子ではないと吹き込むという、なかなかえぐいシナリオです。
http://homepage3.nifty.com/nada/page043.html
オセロも男が嫉妬の苦悶にもだえる芝居ですよね。端役ですが、やってておもしろかったです。
ストリンドベリのことは知りませんでした。
読んでみようと思います。
オセロもそうですが、シェークスピアの物語は
主人公の肉体的危機と精神的苦悩がコアで、
ハムレットは、最愛の女性の兄殺しをする羽目に
なりますし、ロミオとジュリエットも
愛する女性の従姉妹を殺す羽目になるんですよね。
一人の女性を愛すると同時に、その女性自身、
あるいは、その女性の近親者を殺す主人公の
苦悩といった形で葛藤を作り出す物語は
シェークスピアの時点で完成されてしまったのかも
しれません。