こっちのFTの記事から。
これ読んで、最近のアメリカ財務省の一連の動きが、繋がってわかったので取り急ぎ。
業績が悪化している米国の自動車大手3社(ビッグスリー)に米政府保証による低利融資を実施する法律が成立した。販売不振に苦しむゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーター、クライスラーは歓迎しているが、なぜ政府が個別企業支援に乗り出すのか、疑問点は多い。
ビッグスリーは米政府が供与する保証枠を利用して、総額250億ドル(約2兆7000億円)の低利融資を受けることが可能になった。低利融資の表向きの名目は環境対応車の開発資金の供給である。だが、カネに色はついていない。巨額の融資保証によって、3社の当面の資金繰りはある程度楽になるだろう。
政府による支援には、米国内でも異論が少なくない。ビッグスリーの業績悪化は、小型車シフトの遅れなど自らの経営の失敗が招いたものだからだ。環境対応という大義名分があったとしても、政府支援は自由競争のルールから逸脱している。
社説1 問題多い米政府のビッグスリー支援(10/3)
今日、日経の社説でこんなのが出て、「ビッグスリーは米政府が供与する保証枠を利用して、総額250億ドル(約2兆7000億円)の低利融資を受けることが可能になった」ってので、FTの記事読んで、この法案とのつながりが見えたというか。
FTの記事の内容は、コマーシャルペーパー(Commercial Paper 略してCP)の市場から急速に流動性がなくなっているって話です。
CPの詳しい話は、最近やっているアメリカの金融の歴史の話でしますけど、アメリカでは、1970年あたりに大きな動きがありました。CP市場の登場です。
CP市場が登場したことで、大企業などの信用の高い企業は、直接、市場から資金を調達できるようになりました。その過程で、大企業は、銀行を中抜き出来るということに気づきました。自動車ローンが代表例ですけど、銀行を使わないで自分達で自動車ローンを作れるって気づいたんです。
コストの削減にもなるし、新しい収益源にもなったので、大企業の幾つかは金融事業に手をだしていきました。アメリカの大企業のいくつかが、自前の金融部門をもっているのは、そういう理由です。
ここで重要なのは、アメリカの金融システム内において、CP市場は、かつて銀行が担っていた役割を果たしているという点です。そして、もし、CP市場から流動性が枯渇しまうと、CP市場で資金を調達していた企業は、資金繰りに困ってしまう・・・
これは、別種の銀行取り付けと言っても良いんです。銀行取り付けと、ほとんど同じ結果を招くからです。姿を変えて復活した取り付け騒ぎと言っても良い。投資家がリスクに怯えて、CP市場から資金を流出させてしまうと、銀行取り付けと同じような結果が実態経済にふりかかる・・・
最終的に行き着く所は、資金繰りに困った企業が、手持ちの資産を売るか、リストラや給与カットをするか、あるいは倒産するか、になるんです。つまり、経済にデフレ圧力がふりかかる。
実のところ、こうした資本増強の目的は、GEの格付けを守ること、そして資金調達にかかわる問題を回避することだ。GEは、借り換えには全く問題がないと主張している。
コマーシャルペーパー(CP)市場には明らかに圧力がかかっている。9月15日に米証券大手リーマン・ブラザーズ・ホールディングス(LEHMQ)が連邦破産法11条の適用を申請したことを受け神経質になったマネー・マーケット・ファンド(MMF、短期金融資産投信)は先週、投資資金をCPから国債に移した。
投資家は市場から資金を引き揚げ、CPには超短期でしか投資しなくなる。このため企業は、市場の混乱にさらに敏感になっている。
米連邦準備制度理事会(FRB)と米財務省は先週後半、CP投資家を安心させようと幾つかの対策を打ち出した。だが投資家は、長期の投資には消極的だ。米通信大手AT&T(NYSE:T)のランドール・スティーブンソンCEOは1日、「CP市場は現在、翌日物を取引している状態だ」と語った。
バフェット氏、GEの資本増強も支援
バフェットが、こないだGEの資本増強に手を貸したり、FRBと米財務省がCP投資家を安心させようと躍起になって対策出してたり、MMFに保証だしてたり、今回ビッグ3に緊急の融資法案ができた理由も、これで背景がはっきり見えてきたというか。
GEや、GMは、派手に金融部門を使ってきました。GEに関していえば、個人向けのクレジットカード事業、法人向けでは中小事業向け融資です。GMは、自動車ローンからサブプライムまで手広くやってました。
で、そういう金融事業の資金ってのは、GEやGMっていう企業の信用力をバックにして、CP市場から調達してたんです。
ところが、そのCP市場が凍りついて、資金を調達できなくなっている・・・銀行は不良債権まみれで金が貸せない・・・つまり、資金の貸し手が完全に消えてしまっているんです。
銀行は、FRBがついてますが、GEやGMには、最後の貸し手がいないんです。おかげで、GEはバフェットに泣きつく羽目になり、ビッグスリーは政府からの援助を頼む羽目になった。。。と。
となると、今起こっているのは、「米経済、前代未聞メルトダウンの危険が――フィナンシャル・タイムズ」から抜粋しますけど、
ステップその3では、証券化されていない消費者負債(クレジットカード、自動車ローン、学生ローンなど)が巨額損失を出す。すると「信用収縮」は住宅ローンから、さらに多種多様な消費者信用に広がって行く。
GEやGMなどのノンバンクが扱っているクレジットカードや自動車ローンで損失が広がっていく段階に入ったという事です。実態経済への悪影響が、住宅ローンに止まらず、消費者に直接、打撃を与えてしまう・・・それは消費をさらに悪化させてデフレと不況を呼び込んでしまう・・・
ステップその5は、商業不動産市場の融解(メルトダウン)だ。
GMやGEは資金繰りがつかなくなって、不動産を投げ売りしてしまうかもしれなかった。また、GEの金詰まりは、GEの金融部門から与信を受けていた中小企業にも波及してしまう・・・そうすれば、商業不動産にも影響が出る・・・。このあたりが、今回の一連の出来事の背後にあると思います。
ステップその8は、企業による債務不払いの連続。平均的にみると、米企業の状態はまともだが、いわゆる「ファットテール」の分厚い分布部分にあてはまる多くの企業が、低い収益性と大きな債務を抱えている。こうした企業の債務不払いが立て続けば、こうした企業の債務を保証するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS、貸付債権の信用リスクを保証してもらうオプション取引)の損失が広がる。損失額は2500億ドルに上る恐れがあり、債務保証会社のいくつかが破綻するかもしれない。
GEやGM、AT&Tなどの大企業の資金繰りが悪化しているようです。そうなると、それらと取引のある中小企業や、GEの金融部門なんかから融資受けていた中小企業が、次に資金繰りが出来なくなるのは目に見えているわけで。
低い収益性と大きな債務を抱えている企業は、彼らの資金の元栓である銀行やCP市場が凍りついているので、これから債務不払いになる可能性が高い・・・そうなれば、それらの債務を保証するCDSの損失が予想以上に広がって、金融市場はまた大混乱に陥ってしまうかもしれない。
だから、変則的な方法で、資金を投入している状態なんでしょう。今回のビッグスリーへの資金の投入の名目って、「環境対応車の開発資金」です。たしかに、プリウスの成功みれば、そっちにいくのはわかりますが、時期的に、どうみても、ねぇ・・・
ステップその11は、金融市場のあちこちで流動性が枯渇。これには銀行間も為替市場も含む。支払い能力についての懸念悪化がこの背景となる。
これは、現実に起こっているんですが、銀行が不良債権にまみれて貸し出しを行えない状況で、CP市場は投資家が一斉に逃げ出して、凍りついてしまった。銀行間の市場であるインターバンクも同様の状態です。
お金を出してくれる人がどこにもいない状態。FRBは頑張っていますが、この状態では、よい企業わるい企業関係なく、体力の弱い所からやられていくことになります。
そしてステップその12では、「損失、減資、信用収縮、強制破産、資産の投げ売りなどによる、ひどい悪循環」がおきるという。
半年前に話題になった記事から、抜粋しましたが、これらの懸念が今、正に起こる寸前です。財務省とFRBが死力を尽くして、土俵際でこらえてますが。
金融機関は、まだFRBから流動性を供与されるので、なんとかなるかもしれない。でも問題は、非金融機関に波及してきた問題。蘇った銀行取り付けとも言える問題です
CP市場から資金を調達して、自動車ローンや不動産、消費者ローン、中小企業融資、クレジットカード事業を行ってきたノンバンク(GM、GE、etc)は、現状、資金が調達できなくなっているんです。
CP市場から流動性がなくなるってのはそういうことですし。
もし、このまま、銀行からもCP市場からも資金調達ができない状況が続いたら、企業が資金を得るために、資産の投げ売りを始めたり、消費者向けの与信を絞るのは確実で。倒産が予想以上に多くなれば、CDSの問題が出てきます。
それは、デフレを引き込むわけで。
アメリカの大企業のうち幾つかは、すでに銀行の貸し付け機能を部分的にですけが、取り入れてます。GEやGMは、その代表格です。販売金融や、クレジットカード事業、中小企業向け融資を行っているんです。
かつて、シティバンクのウォルター・リストンは、「シアーズはアメリカ最大の銀行である」と言ったのです。これは、シアーズのクレジットカードが全米で使われ、与信残高が70億ドルあり、大銀行並のスケールだったからなんです。
この流れはGMやGEなども同じなんです。彼らは、とてつもなく巨大なノンバンクを抱えているんです。日本の企業でも似たような所はあります。
だけど、彼らは、そういった事業に手をだすことで、かつて銀行がもっていたリスクも抱え込むことになってしまった。引き返せないところまで。
今、そういった企業への信用が急激に落ちてきていて、その結果がCP市場から資金の退避という形になって現れてます。銀行取り付けで急速に預金が銀行から引き出されているのと同じ状況なわけです。
しかし、今、彼らには、FRBのような最後の貸し手が存在しない・・・
GEが今回バフェットから出資をもらうというのは、非常に強い。信頼が回復できるかどうかにかかっている問題ですから・・・
ただ今回のビッグスリーの支援にしても、ノンバンク系の金融システムを守るための苦肉の策、としか言えません。
現状のシステムでは、金融システムのメルトダウンに対処できない・・・銀行以外の金融機関が増えすぎている。大企業は、すでに半分銀行のような存在になってしまっている。現在進行中の崩壊を止めるには、銀行だけでなく、大企業の信用も回復させないといけない。そうしないと、CP市場が凍りついて動かない。良い悪いでなく、体力のない所から死んでしまう。でも、これは中央銀行のもっている権限を越えた問題で手が届かない。
それが、こういう形で白日の下に晒されたんだと思います。
ダムは崩壊寸前。金融安定化法案が通れば、金融機関は助けることができるかもしれない。でも、CP市場は救えるかどうか。それには、アメリカ大企業の信用が回復することが必要で。
不良債権の買い取り対象に自動車ローンを含める声が自動車業界から出ているみたいですが、これをどうするんでしょう?信用逼迫の原因になるようなら、手を打たないといけなくなる。
CP市場にどんくらいで資金が戻ってくるかどうかはわかりません。とりあえず、法案通った後、どうなるか、でしょう。戻ってこない場合には、何らかの行動を起こさざるを得なくなる。古き良き時代のシステムにはもう戻れない。
この件についてはアメリカはかなり変則的な手段で必死に対抗しているわけですが、この件が片付いたら、金融システムのあり方そのものが問われる出来事になっていると思います。
これは、やがて、日本でも同様の議論になると思います。日本の大企業のいくつかは、金融業に手を突っ込んでいて、銀行がかつて持っていたリスクを抱え込んでしまっていますから。
現在、銀行と大企業への信頼を投資家が失ってクレジット市場は凍りついている。残っているのはドルと米国債。これが最後の砦。破られたら終わりです。
たとえば日本のインターバンクではいま、同じ円建ですら邦銀と外銀のレート乖離があり、インターバンクが全部悲惨なわけではありません。
CP市場冷え込みという点ではソフトバンクのコミットメントライン増額があり、商業用不動産の世界ではリプラスの破綻で、すでに賃料保証モデルが危機にさらされていますよ。
長らくブクマさせていただいた身としては、間違った大統領選エントリーやFTのコピペより、歴史エントリーの続きを書いていただきたいです。
対する、CDSは・・・、
はぁ・・・、なんで、こんなシロモノとそれを推し進めて来た連中を今まで野放しにしてきたんでしょうね。
その後ろにあるCDSが・・・
バフェットの言うとおり大量破壊兵器そのものです。
核分裂連鎖状態ですね。
連鎖しだしたらデフォルトリスクなんて
誰も保障しきれないに決まっています。
もうメルトダウンまで行っちゃうんでしょうか・・・