まず、問題の記事の紹介から入りますが、読んでうんざりしたのが、この記事です。
ワーキングプア(働く貧困層)の温床とされる日雇い派遣労働をめぐり、舛添厚生労働相が13日、日雇い派遣を原則禁止する方針を示した。秋の臨時国会に労働者派遣法の改正案を提出する方向だ。世論の高まりに押された格好だが、与野党の隔たりは大きく、臨時国会で規制強化がどこまで進むのか不透明だ。
日雇い派遣「原則禁止」、厚労相が法改正を表明
あのですね、厚労省の方々は、この国の労働環境というのが、どういう風に出来ているのか、わかっておられるのでしょうか?そもそも、なんで終身雇用だとか年功序列だとかが、今の不景気の日本でも維持されているか、理解しておられるんでしょうか?
この国の労働構造においては、正社員というのは、派遣社員無しには維持できないんです。企業が正社員に福利厚生をして、給料払って、失業から守ってあげれるのは、派遣とか期間工とか、フリーターがいるからなんです。景気が悪くなったときに、最初にコストカットするための非正規雇用なんです。日本じゃ、簡単に正社員のリストラはできませんからね。
それでもって、景気が悪くなったときに、すぐ人件費のコストカットできるから、正社員の雇用は守られるんです。そうやって、正社員の雇用は守られてきたんです。
派遣労働の合法化ってのは、二つの意味がありました。一つ目は、企業が安い労働力を求めて海外にでていってしまうのを防ぐため。日本国内でも安価で、それから切り捨て可能な労働力が使えるなら、海外に出て行く必要はありませんからね、企業も。
それからもう一つが正社員の雇用を守るためです。心底嫌な話ではありますが言わせてもらいますけどね。何で派遣労働を認めると、正社員の雇用が守られるのか?っていうと、海外との競争にさらされた企業は、派遣社員を使うことで、事実上のコストカットが出来たからです。
新入社員を減らせば、出て行く人の方が多くなるので、給料の水準はそんなに落とさないでも、人件費は減らせます。人が減ったら、生産力が落ちて競争力が普通は落ちますが、この部分を派遣労働で補うことを選んだのが、日本の政治と経営者だったわけです。
なんでそんな事したかっていえば、日本の正社員の雇用を守るためです。というか、法律の問題上、守らざるを得なかったのですがね。
心底嫌な例えなんですけど、この仕組みを説明するのには、良いやり方なんで使いますが、切り捨て御免の万能奴隷に支えられた貴族社会みたいなもんんなんですよ、日本の正社員と派遣とかの外部労働人口の問題はね。
奴隷が1000人いて、貴族10人いたとします。それぞれの貴族一人につき、100人の奴隷を必要するとします。そうしないと、貴族は自分の贅沢な生活を維持できないとします。貴族が貴族たりうるためには、奴隷が100人必要ってことです。
トヨタの正社員も、基本的にはこれと同じなんです。トヨタの正社員が存在するためには、無数の下請けと派遣労働者がいなければならないんです。低賃金で劣悪な労働をしてくれる人達がいないと、トヨタは正社員を維持できないんです。
国がここで、「派遣禁止」って法律を作ったとしましょう。そうなったら何がおこるか?
答えは、正社員も派遣も減るです。
派遣が禁止されたら、トヨタは、正社員を維持するために必要な下請けやら低賃金労働者を使えなくなります。下請けが使えなくなる理由ってのは、下請けのような中小企業は、派遣社員がいないと成り立たないからです。もともとカツカツなわけだし。
奴隷がいなければ貴族は存在できないのと同じなんです。派遣社員がいないと、日本社会ってのは、正社員の多くをそのまま雇用し続ける事ができないんです。派遣法が作られた理由の一つは、身も蓋もない事を言ってしまえば、正社員の雇用を守るためだったんです。
正社員の雇用を守るために、若年労働層とか、失業者とか、女性が犠牲にされたわけなんですがね。女性なんて、企業が長期雇用の正社員を優遇するもんだから、子育てしてから再就職なんかしようとするとメチャクチャ不利になるわけで。新卒と中途採用は、労働市場から閉め出されちゃうんです。
だから、派遣労働を禁止すれば、派遣の人達が職につけなくなって困るだけでなく、正社員事態の数も減るんです。
製造業の大企業は派遣が使えないなら、海外に工場建てて生産拠点移すだけです。そして、国内には最低限の正社員しか残さないって選択を取るでしょう。就職氷河期と同じことが起きます。つまり、新卒減らして希望退職者を募り、人件費を減らしていくって方法をとるでしょうね。結果として、正社員が減ります。
中小企業は、派遣みたいな安い労働力使えないなら、そのまま倒産しちゃうとこも出るでしょう。その結果、中小企業の正社員も減ります。そもそも、大企業が海外に生産拠点移したら、その時点でアウトな中小企業だって多いんです。そして、やっぱり正社員は減ります。派遣もね。
日雇いってのは、そういうシステムの中の歯車の一つなんです。もし禁止されたら、それは日雇い労働者が失業するだけじゃすみません。日雇い労働者に支えられて初めて存在できる正社員の数も減らすことになるんです。
だから、日雇い派遣には、僕は反対するんです。これほど馬鹿げた規制はありません。何の意味もない。考え得る限り、最も悪い結果をもたらす規制です。派遣の雇用も、正社員の雇用も減らしてしまう。
このエントリは、心底嫌な気分でかいているエントリです。だって、本当は、僕だって、池田先生みたいに、「正社員と非正規社員の差別を撤廃して労働需要を増やせ」って書きたいですよ。あるいは、弾さんみたいに、「オランダみたいなワーキングシェアを!」って言いたいです。
でも、現状の正社員の色んな保護を取っ払え!って言っても、現在進行形で進んでいる政治のアレには効果がありそうにないんです。だって、正社員のほうが、現状派遣より多いんだから。正社員は、そんな事を許さないでしょう。
結局、政治家は、基本人気商売です。派遣と正社員を天秤にかけて、声が大きい方を取り入れるでしょう。つまり正社員側のです。だから、池田先生の主張は政治レベルでは、実現しそうにない。個人的は大賛成なのですが。
また、弾さんの主張は、要するにワーキングシェアで、オランダでは成功した奴なんですが、日本ではどうにも悪名高いんです。多分、実現されそうにない。
だから、僕は実現可能そうで、そしてワーストではないという理由で、派遣労働を認めているんです。それから日雇いも。
それが欠陥のあるシステムだってのは百も承知です。でもワーストではないんです。今の日本でワーストなのは、派遣労働を全面的に禁止して、常用雇用しか認めないって法律で認めちゃうことです。(恐ろしいことに、これを主張する人いるんです。)
これやったら、派遣労働者は完全に失業しちゃうし、企業は正社員を減らして、海外に生産拠点を移します。結果として、日本の失業率が相当上がります。
問題はここで終わりません。失業率が上がれば、政府は何らかの対策を打たざるを得なくなります。当然、真っ先にやるのは、借金して、大規模な財政政策をすることでしょう。民間の代わりに、失業者を雇おうとしてね。
結果として、借金まみれの国庫にさらに借金が増えたあげく、ほとんど何の効果もないような財政政策で、無駄金が使われることになります。財政政策が、効果を発しないっていうのは、フリードマンが喝破した奴なんですけどね。そもそも、日本の官僚とか公務員は、今まで散々非効率な金の使い方をしてきたわけで。財政政策だけ、効率的に金を使ってくれるなんて望むべくもないんです。
その結果として、借金が増えすぎて、長期金利があがったりでもしたら、そのことがさらに企業の経営を悪化させて、倒産を増やし、雇用をさらに減らす・・・って連鎖が起きることになりかねないんです。
繰り返しますが、今の日本の経営システム内では、正社員の雇用を維持するためには、派遣に代表される外部労働人口が必要なんです。彼らがいるから、正社員を馬鹿高いコストで維持できているんです。
もし、派遣を禁止すれば、企業、特に大手の製造業企業なんてそうですが、正社員を現在の規模では維持し続けることはできないんです。もし、派遣を禁止すれば、派遣労働者だけでなく、正社員の数も減ります。これは必ず起こります。
だから、ワーストの選択肢ではないという理由で、僕は日雇い派遣の「原則禁止」には反対します。これは、絶対に解決策にはなり得ません。それどころか、問題をさらに悪化させるだけです。失業率が悪化するという形で。
ベターな選択肢、僕がベストだと思う選択肢は、それに反対する人が多すぎるという理由で取れません。だからしょうがないんです。